フクシマ原発訴訟が問う「無責任の体系」/原発事故の真相(37)
黒木亮氏の進行中の新聞小説『法服の帝国』は、原発訴訟の理屈にならないような法理を描いていて、興味深い。
原発訴訟をWikipediaでみると、書きかけ項目ではあるが以下のような説明がある。
原発訴訟(げんぱつそしょう)とは、原子力発電所の安全性や人体・環境への影響をめぐって争われる訴訟の総称、一般呼称。原子炉の設置許可取り消し、建設差し止め、運転差し止め、あるいは、作業員・住民の健康被害の賠償が請求の原因とされる場合が多い。
個別のケースをピックアップしてみると以下の通りである。
●伊方原発訴訟 1973年1号機設置許可取り消し請求。1978年松山地方裁判所請求棄却。1992年最高裁判所原告敗訴確定。
●東海第二原発訴訟 1973年設置許可処分取消請求。1985年水戸地方裁判所判決。2001年控訴審判決。2004年最高裁決定。
●柏崎刈羽原発1号機の設置許可処分取り消し訴訟 1979年請求。1994年新潟地方裁判所請求棄却。2005年東京高裁控訴棄却。
●福島第2原発1号機の設置許可処分取り消し訴訟 1992年最高裁原告敗訴確定。
●もんじゅ訴訟 1985年原子炉設置許可処分の無効確認、建設・運転の差止め請求。2005年最高裁で請求棄却が確定。
●志賀原発訴訟 1988年1号機建設差し止め請求。1994年金沢地方裁判所請求棄却。1999年名古屋高等裁判所控訴棄却。2000年最高裁で確定。
上記のように、最高裁で判決が確定したものはすべて、住民側敗訴という結果である。
原発の安全性が、今まで恣意的に、あるいは地質学的な知見が不十分なままに、審査されてきたことがようやく明らかになりつつある。
⇒2012年4月28日 (土):活断層の上の原発/花づな列島復興のためのメモ(57)
現実に、福島第一原発で重大な事故が起きた。
これによって、原発訴訟の法理はどう影響を受けるのか?
有名な「ハインリッヒの法則」によれば、重大な事故が発生するに至った背景には、次のような構造がある。
軽災害をなくせば、重大災害もなくなります。ヒヤリ・ハットをなくせば、軽災害もなくなります。不安全状態、行動をなくせば、ヒヤリ・ハットもなくなります。300件のヒヤリ・ハットを分析、原因を探り対策をとること、つまりその背景にある、「不安全行動」や「不安全状態」を取り除くことが、1件の重大災害、29件の軽災害を未然に防ぐことに繋がるのです。
http://www.imimed.co.jp/magazine/safety/vol_006-1.html
「ハインリッヒの法則」は、労働災害のみならず、医療事故等にも該当するとされている。
原発事故についても、上記のような構造が想定されるとしたら、「不安全行動」や「不安全状態」が何であるのか、それを取り除くにはどうしたらいいのか、を調べることが必要である。
それぞれの事故調(政府、国会、民間、東電)の責務の1つに、「不安全行動」や「不安全状態」の調査があるのではなかろうか。
政府事故調も国会事故調も最終報告が出ていない時点で、原発の安全性を「政治的に決定する」というのは、原発事故については、「ハインリッヒの法則」が適合しないと考えているということであろう。
福島第一原発事故についても、裁判が始まろうとしている。
福島第1原発事故で、かけがえのない日常を壊された県民1324人が立ち上がった。11日午後に行われた「福島原発告訴団」による福島地検への告訴・告発状提出。原発事故を招き被ばくを拡大させたとして、業務上過失致死傷などの容疑で、東京電力や国の幹部ら個人の責任を問う。この日、県内外から約200人が集まり、福島市内で記者会見や報告集会を開催。「個人の責任を問わずして福島の復興はありえない」「事故で分断されたつながりを取り戻す出発点に」などと訴えた。
http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20120612ddlk07040058000c.html
告訴がどうなるか予断は許されないが、もはや過去の原発訴訟の一部にあったような、「原告に適格性がない」なという理屈は通用しない。
国政調査権を持っている国会事故調においても、事故の構造を明確化することには限界があった。
⇒2012年5月29日 (火):依然として不明朗な「藪の中」/原発事故の真相(32)
あれだけの重大事故が起きたにもかかわらず、関係者が責任をとったという話は伝わってこない。
丸山眞男のいう、この国における「無責任の体系」は、戦後66年を生き延びているのだ!
司法がどこまで事故の真実に迫れるか、新たな原発訴訟が「無責任の体系」を突き崩すことに期待しよう。
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