民主党と野田政権のアイデンティティ/花づな列島復興のためのメモ(86)
最近はアイデンティティという哲学的用語も一般的になってきた。
インターネットを使って何かをしようと思えば、必ずIDとPWを訊かれる。
このIDがアイデンティティすなわちその人の識別をするための記号であり、PW(パスワード)は本人であることを確認するための記号である。
PWは本人しか知らないことが前提であるから、容易に推測できるようなものは不適とされる。
私がこの言葉を意識するようになったのは、湯川秀樹博士の「同定理論」に触れて以来である。
⇒2011年1月30日 (日):馴質異化と異質馴化/「同じ」と「違う」(27)
その後、CIすなわちコーポレート・アイデンティティ(Corporate Identity )などとして広く使われるようになり、企業人には常識の用語となった。
しかし、アイデンティティの本質は依然として難解ではなかろうか。
オウム真理教の地下鉄サリン事件の関係者として特別手配されていた高橋克也容疑者が逮捕された。
高橋容疑者の監視カメラの映像だとか筆跡などがTVで広く繰り返し露出していたので、国内に潜行するのは所詮ムリであったであろう。
しかし、高橋容疑者は、監視カメラの死角を選んで逃亡し、メガネを買い換えて容貌の印象を変えようとし、偽名を使って漫画喫茶や個室ビデオ店を利用していたという。
彼なりにアイデンティティを偽装しようと努力していたということだろう。
民自公の消費税増税法案の修正協議の様子は次のように伝えられている。
14日夕から15日未明にかけて行われた協議では「マニフェストの旗は降ろしませんから」とかたくなに言い張る長妻氏に自民党は手をこまねいた。マニフェストは断固撤回しない-。党内の反発を懸念した前原氏の指令だった。
14日夜の自民党幹部会合では不満が噴出した。
「民主党はなんでグズグズ言っているんだ!」
それでも自民党が民主党と折り合ったのは、関連法案成立と引き換えの「話し合い解散」を引き出すためだった。民主党関係者は「14日の電話会談で首相から谷垣氏に解散の時期に関する何らかのメッセージがあったはずだ」と語る。
http://sankei.jp.msn.com/smp/politics/news/120616/plc12061601310001-s.htm
ロシア文学の優れた翻訳家だった米原万里さんに『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)』(9712)という絶妙なタイトルのエッセイ集がある。
一見セクハラまがいのタイトルであるが、翻訳の難しさを示している。
不実か貞淑か、すなわち原文忠実性と、美女か醜女か、すなわち文章として自立した美しさを確保することが、翻訳という作業では、二者択一にならざるを得ないそうだ。
あるいは「忠ならんと欲すれば孝ならず孝ならんと欲すれば忠ならず」などという言葉もある。
主君に忠誠を尽くそうとすれば親の意に逆らって不孝となり、親の意に従おうとすれば主君に背いて不忠となるというわけである。
世の中には、どちらかを選ばずにはならない選択というものが往々にしてある。
マニフェストの旗を降ろすか、自公との合意を選ぶか。
これはタテマエに拘るか、実質をとるかの選択と言えなくもない。
しかし、政治家をstatesmanと言うように、statementは命のはずである。
もっとも、statesmanには、「(公正でりっぱな)政治家」と説明されている。
マニフェストに拘らない政治家は、(公正でりっぱな)とは言えないということであろう。
「マニフェストで勝ったわけではない!」と岡田副総理のように開き直るのは論外としても、せめて形だけでもマニフェストを守りたい(つまり旗だけは降ろしたくない)と思っている民主党議員は少なくないようである。
まったく反古にしてしまうと、自分に投票した有権者に説明し難いのだろう。
自民党はそこを突いていたわけだが、妥協したのは、自民党にも余り追い詰めない方が得策という思惑があったと推測される。
言ってみれば、談合そのものである。
かくして、民主党のアイデンティティは揺れる。
もっとも野田総理自身は、自民党と識別し得ないアイデンティティでも一向に構わないと考えているようであるが。
⇒2012年6月 4日 (月):乾坤一擲の覚悟で自民党に擦り寄る野田首相を嗤う/花づな列島復興のためのメモ(76)
⇒2012年6月10日 (日):政権は自民党野田派か?/花づな列島復興のためのメモ(82)
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