福島原発事故の水問題/原発事故の真相(33)
水収支という言葉がある。
一定の地域において一定の期間に流入する水の量と流出する水の量との差引勘定。流入には降水や地表および地下の流入水、流出には蒸発散する水や地表および地下の流出水がある。
http://www.weblio.jp/content/%E6%B0%B4%E5%8F%8E%E6%94%AF
収支とは、収入と支出、つまり「入りと出」である。
保存則が成り立つものについては、ある状態、たとえば一定の地域における水の量、は入ってくる量と出ていく量で決まる。
お金も水も、エネルギーも同じことである。
⇒2009年8月27日 (木):熱と温度 その4.熱伝導率と熱拡散率(続)/「同じ」と「違う」(6)
ところで、今年の3月26日に公開された原子炉内部の映像(内視鏡映像)によって、原子炉の水位が想定よりずいぶん低いことが明らかにされた。
⇒2012年3月29日 (木):2号機内部の内視鏡映像/原発事故の真相(23)
水位は、水収支の関数である。
水位が想定外だったということは、水収支が想定外であったことを意味する。
5月30日付の東京新聞に、福島第一原発の水収支に関する解説記事が載っていた。
Q 2号機の水位も六十センチという記事があったけど、どういうこと?
A 格納容器が損傷している証拠。1~3号機とも炉心溶融が起きた時、原子炉(圧力容器)の底部が壊れ、格納容器も高熱と高圧で弱い接合部などが壊れた。1号機には毎日百六十トン、2号機には二百二十トンの水が原子炉に注入されているけど、すぐに格納容器に漏れ出し、さらには原子炉建屋地下に流れ込んでいる。
・・・・・・
Q 処理した水はどうしているの?
A 先週だと、一日平均で約九百トンの汚染水を処理して、うち五百トンを1~3号機の核燃料を冷やすのに再利用した。でも、残りの四百トンは使い道がなくて、敷地内のタンクにためている。
Q ずっとため続けるの?
A それが問題なんだ。敷地内に大小約一千基(容量は計約二十万トン)のタンクを設置したけど、もう残りは四万トン強。あと三カ月もすれば満杯になる計算だから、また増設する。地下のため池も造る。でも、十年くらいは注水を続けるし、タービン建屋地下には一日数百トンの地下水が流れ込み、高濃度汚染水と混じって水量を増やしてしまっている。何とかしないと。
Q タンクの水を海に捨てるのでは?
A 東電は昨年末、そうしようとした。でも、漁協などの猛反発で断念した。セシウムは除去できても、ストロンチウムなどは残っているから。こうした放射性物質も除去できる装置を秋ごろ導入するそうだけど、効果はやってみないと分からない。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012053002000094.html
常識的に考えれば、水収支の計算の合わない量は、環境中に流出した(している)のだろう。
6月1日付の「ダイヤモンド・オンライン」誌に、『福島・小名浜港に水揚げされた初ガツオ/築地市場で値段がつかない風評被害の深刻』という記事が載っている。
漁業の復興を願う被災地の生産者の思いはまたも打ち砕かれた。
震災前には国内有数のカツオの水揚げ港であった福島・小名浜漁港で、5月21日、今年初めてのカツオの水揚げが行われた。水揚げされたカツオは翌日、一部が東京の築地市場に卸された。
ものによっては最高値でカツオ1キログラム当たり2100円の値が付いたこの日、小名浜で水揚げされたものは同105円という“捨て値”しかつかなかった。
このカツオは、汚染が心配される福島沖で漁獲されたものではない。福島県から500キロ以上離れた八丈島沖で取れたものだ。静岡や千葉など他の漁港で水揚げされた、同じ水域で漁獲された同じカツオは、通常の価格で取引されている。まったくいわれのない、まさに風評による被害だ。
http://diamond.jp/articles/print/19388
同誌のように「風評による被害」と言い切ってしまっていいのか。
それだけ、小名浜のブランド価値が毀損された「実害」とも言える。
正当な補償がされるのか、心配である。
フクイチでは、冷却用の水の処理の問題さえ解決していないのである。
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