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2012年5月11日 (金)

小沢裁判控訴の狙いは?/花づな列島復興のためのメモ(64)

政治資金規正法違反罪で強制起訴され、東京地裁で無罪となった小沢一郎民主党元代表の裁判で、検察官役の指定弁護士が東京高裁に控訴した。
いわゆる世論には、判決に納得がいかないとして、この控訴を当然とみる雰囲気もある。
しかし、私は、この裁判が司法権のあり方に係わるものとして批判してきた。

小沢氏の政治姿勢や好き嫌いのような問題とは別に次元で、そもそも裁判が行われること自体疑問であった。
⇒2012年2月18日 (土):小沢裁判に対する疑問
したがって、一審無罪判決は、この裁判を終結させるいいチャンスだった。
にもかかわらず、なぜ指定弁護士は控訴したのか?

 主任格の大室俊三弁護士ら3人は東京・霞が関の司法記者クラブで会見し「判決には看過しがたい事実誤認があり、十分に修正(覆すことが)可能であると判断した」と説明した。判決の一番の問題点として「(元秘書と小沢氏との)共謀が認められないのはおかしい」と指摘。「既存の証拠でも原判決の誤りは十分指摘できる」と述べた上で、小沢氏や元秘書らの証人尋問申請や補充捜査を行う可能性もあり得ることに言及した。
 政治的な圧力については否定したが、無罪判決を受けた人を被告の立場に長くとどめることについては「その点の配慮から慎重に判断したが、控訴の結論に至った」などと職責の苦悩も口にした。
 小沢氏の弁護団も東京地裁で記者会見し、主任弁護人の弘中惇一郎弁護士は「あれだけ審理して無罪になった人の裁判を続けるのは人権面とともに、普通の弁護士の感覚から違和感がある。(小沢氏の)立場や政治的影響を全く無視した判断であれば問題だ」と強く批判。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20120510_3

検察官役とはいえ、弁護士である。
検察庁が「全面戦争」といわれるほどの力を注いで諦めた起訴を、弁護士が控訴するという図式はどこか不思議である。
まるで、「有罪判決が出るまで頑張るぞ」と言っているような感じである。
弁護士としては、冤罪事件について、「無罪判決が出るまで頑張るぞ」というのなら理解できるが。

「政治的な圧力については否定したが」というのが気になるところである。
周知のように、小沢氏は消費税増税に批判的姿勢を明らかにしている。
かつての主張との整合性を云々する人もいるが、今の情勢で増税すべきか否かが問われているのである。
デフレ脱出が優先する立場からは、増税反対は理解できる。
いずれかの時点では、当然増税もあり得るだろう。

田中秀征氏は次のように見る。

 この控訴に対しては、追加される新しい証拠の有無、一審判決の重み、そして検察審査会の議決による強制起訴の妥当性などについてかなりの異論がある。私も控訴を断念するのが妥当だと考えていた。
 指定弁護士は政治的影響については考慮していないという趣旨の発言をしているが、この控訴方針から、政治的臭いを感じる人は少なくないだろう。
・・・・・・
小沢グループが本会議採決で反対の意向を固め、それが法案否決につながる見通しになれば、(1)消費税増税法案が否決されて野田佳彦首相が退陣するか、それとも(2)自民党と連携して衆議院を通すか、のいずれかになるだろう。自民党と連携する場合、自民党からも造反者が出る可能性が大きい。しかし、その場合は、自民党の条件である解散・総選挙を呑まなければならないだろう。
 大連立で消費税増税に走り、自民、民主両党が談合して解散・総選挙を断行すれば、それこそ両党は自分たちの墓穴を掘ることになる。

http://diamond.jp/articles/print/18273

この裁判は、結局「両党は自分たちの墓穴を掘ることになる。」という結論になるのだろうか?
⇒2012年2月22日 (水):小沢強制起訴裁判で墓穴を掘るのは誰か?

原発再稼働問題で鋭く対立的な見解を示した産経新聞と東京新聞が、この問題でも対蹠的な意見であった。
⇒2012年4月28日 (土):活断層の上の原発/花づな列島復興のためのメモ(57)

産経新聞「主張」 は次のように述べる。

 指定弁護士3人全員の一致した結論だった。「弁護士が有罪を求めて控訴してもいいのか」と逡巡(しゅんじゅん)しながら、なお、1審判決には「見過ごせない事実誤認がある」と踏み切った重い判断だ。小沢元代表も民主党も、控訴の事実を厳しく受け止めなくてはならない。

控訴の事実を重く受け止めよ、ということであるが、強制起訴の裁判で一審無罪という判決が出たことこそ重く受け止めるべきだろう。
このことを鮮明に主張しているのが、東京新聞「社説」である。

 一審無罪の小沢一郎民主党元代表を検察官役の指定弁護士が控訴するのは疑問だ。そもそも検察が起訴を断念した事件だ。一審無罪なら、その判断を尊重するよう検察審査会制度の改正を求めたい。
 新しい検察審制度で、小沢元代表が強制起訴されたのは、市民が「白か黒かを法廷で決着させたい」という結果だった。政治資金規正法違反の罪に問われたものの、一審判決は「故意や共謀は認められない」と判断している。
 つまり、「白」という決着はすでについているわけだ。検察が起訴する場合でも、一審が無罪なら、基本的に控訴すべきではないという考え方が法曹界にある。国家権力が強大な捜査権限をフルに用いて、有罪を証明できないならば、それ以上の権力行使は抑制するべきだという思想からだ。
 とくに小沢元代表の場合は、特捜検察が一人の政治家を長期間にわたり追い回し、起訴できなかった異様な事件である。ゼネコンからの巨額な闇献金を疑ったためだが、不発に終わった。見立て捜査そのものに政治的意図があったと勘繰られてもやむを得ない。
・・・・・・
 指定弁護士の独断で、小沢元代表をいつまでも刑事被告人の扱いにしてよいのか。「看過できない事実誤認」を理由とするが、検察審に提出された検察の捜査報告書などは虚偽の事実が記載されたものだ。どんな具体的な材料で一審判決を覆そうというのか。
 むしろ、「白か黒か」を判定した一審判決を尊重し、それを歯止めとする明文規定を設けるべきだ。最高裁も二月に、控訴審は一審の事実認定によほどの不合理がない限り、一審を尊重すべきだとする判断を示している。むろん被告が一審有罪の場合は、控訴するのは当然の権利だ。
 検察による不起訴、強制起訴による裁判で無罪なのに、「黒」だと際限なく後追いを続ける制度には手直しが急務である。

私はあくまでこの裁判は、小沢氏の政策や政治姿勢とは切り離して、司法権の問題として考えるべきだと考えてきた。
しかし、今回の控訴で、田中秀征氏のいう「政治的臭い」を意識せざるを得ない。
控訴により利益を享受するのは誰か?
小沢氏無罪では都合が悪い、影響力のある政治勢力があるということだろう。
私には、指定弁護士の権利の濫用のように思える。

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