リハビリの弁証法/闘病記・中間報告(49)
学生時代に読んだエンゲルス『自然弁証法』に、有名な唯物弁証法の定式化が示されている。
エンゲルスは『自然弁証法』において、唯物論的弁証法の具体的な原則を三つ取り上げた。
1.「量から質への転化、ないしその逆の転化」
2.「対立物の相互浸透(統一)」
3.「否定の否定」
これらがヘーゲルにおいても見られることをエンゲルスも認めている。1.は、量の漸次的な動きが質の変化をもたらすということをいっており、エンゲルスは例えば、分子とそれが構成する物体ではそもそもの質が異なることを述べた。2.と3.に関するエンゲルスの記述は少ない。しかし、2.はマルクス主義における実体論でなく関係論と結びつく内容であるといわれる。つまり、対立物は相互に規定しあうことで初めて互いに成り立つという、相互依存的で相関的な関係にあるのであって、決して独自の実体として対立しあっているわけではない、ということである。3.はヘーゲルのアウフヘーベンと同じである。エンゲルスによれば、唯物論的弁証法は自然から弁証法を見出すが、ヘーゲルのそれはちょうど逆で、思考から自然への適用を行おうとする。
Wikipedia弁証法
鹿児島大学病院霧島リハビリセンターに入院し、促通反復療法(川平法)を受術していて、この三原則を思い出した。
リハビリテーションの行為は、この唯物弁証法の三原則がそのまま当てはまるのではないか。
先ず、ヘーゲルのアウフヘーベンについて一般的な解説をみよう。
ヘーゲルの弁証法は、テーゼ(正)とアンチテーゼ(反)を統合して、ジンテーゼ(合)を得る、という図式で表現される。
この(合)を得るプロセスが、アウフヘーベンである。
http://www.jagrons.com/archives/2009/08/post_646.html
これを踏まえて、「否定の否定」はどう説明されているか?
たとえば、花はやがて枯れて種が残り、その種が成長してまた花を咲かせます。
(花→種、種→花)=(A→B、B→A’)
花がまた花になるのなら、一旦、種になるのはどういう意味があるのでしょうか。
種になる前の花と、種からでた花は同じように見えて、違っているところがあります。
数が増えています。
物事の発展過程が、このように、進むべき方向に対して、一時期、逆に進む形をとるのです。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~shu-sato/bensyo4.htm
分かったような、分からないような説明である。
しかし、リハビリに当てはめれば明快である。
先ず、後遺症としての「麻痺」という現象が、健常な状態に対する否定である。
それを否定する営みがリハビリである。
すなわち、否定の否定。
リハビリという行為そのものが「否定の否定」である。
これでは単純過ぎる?
次のようにも考えられる。
片麻痺者が、何とかして健常者に近い運動をしようと頑張ると、緊張が高まって、かえって運動が阻害される。
麻痺した者なら直ぐ分かることだが、意識して力を入れることはできても、力を抜くことは難しい。
この意識しすると緊張が高まること(否定)を如何に回避するか(否定)。
あるいは、脳血管障害等により、脳の指令回路(運動の指示)に欠損が生じる。
=否定
それに対し、新たな指令回路を形成する。
=否定の否定
「対立物の相互浸透(統一)」は、アウフヘーベンのプロセスで起こるのではなかろうか。
その結果として、「否定の否定」がなされる。
麻痺の契機と麻痺解消の契機が統一されたものが治療中の状態である。
麻痺の契機は、脳機能の一部の損傷。
それを代償する機能の獲得を目指すのがリハビリ。
これらが統一されて新たな脳機能が生成する。
「量から質への転化、ないしその逆の転化」こそ川平法の真骨頂であろう。
何回も何回も繰り返し反復する。
反復の上に反復を繰り返すことにより、頑強に動くことを拒絶していた手指が新たな動きを獲得する。
私の場合、中指と薬指が難物である。
いま、辛うじて動きの芽が出てきたような感じがする段階である。
退院まであと2週間余り。
もちろん、限られた期間での成果には限界があるだろう。
しかし、その限界になるべく近づきたい。
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