金銭で評価し得ない被害の補償/原発事故の真相(28)/因果関係論(12)
原発事故の被害は、総計いくらか?
計算しようにも計算できないだろう。
被害には、金銭で評価できるものと、金銭では評価できないもしくは難しいものがある。
「この世にただ1つしかないもの」については金銭評価が難しい。
人の命や生態系などだ。
そして、人の命と生態系が密接な関連を持っていることを、われわれは水俣病などの例で学んだ(はずである)。
ところが、経済界のみならず政府・民主党まで、電力不足による経済的損失の回避を優先させようという姿勢だ。
⇒2012年5月13日 (日):原発ゼロをどう考えるか?②/花づな列島復興のためのメモ(66)
たとえば、飯館村の被った損害である。
110723日放映のNHKスペシャル『飯舘村~人間と放射能の記録~』の紹介記事。
福島県飯舘村は人口約6000人。山あいの土地で農業や畜産業を営みながら人々は静に生活していた。ところが、東京電力福島第一原発の事故で暮らしは一変した。飯舘村は原発から30㎞以上離れていたため、当初は避難区域などに指定されず、住民は村に残った。しかし実際には、村の土壌は高濃度の放射能に汚染されており、人々は被曝することになった。さらに4月末には国によって計画的避難区域に指定された。村人たちは仕事と暮らしをすべて手放すという悲壮な決断を迫られたのだ。
農作物の出荷停止。汚染状況の判明。村民に広がる被曝の恐れ。「自然と共存した村作り」を目指してきた菅野典雄村長も、村民の命や健康を守るため決意が揺らぐ。村を出るか、それとも残るか、村民は村の消滅のという極限の状況下で、何を考え、どう行動するのか。番組では震災発生から4か月間、飯舘村を定点観測し、「見えない敵」放射能との闘いを強いられた人々の姿を記録した。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/110723.html
しかも、政府がSPEEDIのデータを的確に運用していれば、被害は軽減された可能性が高いのだ。
http://www.imart.co.jp/genpatu-jikogennin-bousisaku-p1.html
⇒2011年9月11日 (日):政府による「情報の隠蔽」は犯罪ではないのか
⇒2011年7月 5日 (火):官邸は誰の責任で情報を隠蔽したか?/原発事故の真相(4)
この飯館村の被害は、どのように算定されるのか?
被害者が特定できない被害の補償はどう行われるのだろうか?
あるいは、原発事故が要因となって、命を亡くした人はどう償われるのか?
東京電力福島第1原発事故による避難生活のストレスで自殺したとして、亡くなった福島県川俣町山木屋の渡辺はま子さん=当時(58)=の遺族が東電に約7千万円の損害賠償を求めて福島地裁に提訴することが9日、分かった。原告側が明らかにした。
原告側を担当する福島原発被害弁護団によると、渡辺さんは原発事故で自宅が計画的避難区域に指定され、福島市などに避難。川俣町の自宅に一時帰宅した翌日の昨年7月1日、ガソリンをかぶって火を付けて焼身自殺した。遺書はなかった。
原告側は、渡辺さんが原発事故で家族と離れての避難生活を強いられ、ストレスがたまって慢性的睡眠不足に陥り、うつ病になって自殺したと主張している。
弁護団は「原発事故被害のなかで、自殺は極めて過酷。悲劇を二度と起こしてはならないという遺族の思いから東電の法的、社会的責任を問う」としている。
東電は「当社事故で皆様に大変なご迷惑をおかけして改めておわび申し上げたい。訴訟については承知しておらずコメントは差し控えたい」としている。
http://sankei.jp.msn.com/smp/affairs/news/120509/trl12050911460006-s.htm
この記事のように、自殺した人の原発事故との因果関係は、立証が難しいだろうと推測される。
自殺はあくまで主体的な意思によるものである。
しかし、そうせざるを得ない状況に追い込んだ原因は厳然としてある。
その原因と自殺という結果の結び付きは必ずしも必然とはいえないが、因果関係が立証されないからといって、補償されない、あるいは十分な補償がなされない、といったことはあってはならない。
因果関係が特定しにくいという面は、いわゆる過労自殺やいじめによる自殺と類似している。
⇒2010年9月13日 (月):山田潤治氏の読み/江藤淳の『遺書』再読(4)
⇒2010年9月14日 (火):宮本光晴氏の読み/江藤淳の『遺書』再読(5)
⇒2010年11月10日 (水):いじめと自殺の因果関係
あるいは、自殺まで至らぬても、それまでの病状が避難生活等で悪化することは多いだろうと思われる。
その被害の全貌も不明のままで、当然補償が済んでいない段階での再稼働は、許されないだろう。
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