復旧と復興/「同じ」と「違う」(45)
「東日本大震災復興構想会議」という組織があった。
東日本大震災の被災地域の復興に向けた指針策定のための復興構想について、内閣総理大臣の諮問に基づき審議を行うために設置された政策会議である。
この会議のサイトを開くと、以下のような説明が載っている。
未曾有の複合的大災害である東日本大震災からの復興は、単なる復旧ではなく未来志向の創造的な取組が必要です。
我が国の叡智を結集し、幅広い見地から復興に向けた指針策定のための復興構想について議論を進め、未来に向けた骨太の青写真を描いていきます。
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/
「復興は、単なる復旧ではなく」とある。
復旧と復興はどう違うか?
yahoo知恵袋に、以下のような例があった。
復興
いったん衰えたものが、再びもとの盛んな状態に返ること。また、盛んにすること。再興。「災害から―する」「伝統工芸を―する」
復旧
壊れたり、傷んだりしたものを、もとの状態にすること。また、もとの状態にもどること。「道は二日で―した」「―工事」
上記を前提とすると、東日本大震災の被害の関して、「単に壊れたり、傷んだりしたものを、もとの状態にするのではなく、再びもとの盛んな状態にする」ための構想を策定しようということになる。
元の状態に戻しただけだと、また津波や地震によって同じような災害が起きる可能性がある。
最新の科学技術が到達している水準を動員し、制度的な制約にとらわれずに考えようということであろう。
「単なる復旧ではなく未来志向の創造的な取組が必要」という視点は、大いに賛同したい。
⇒2011年3月22日 (火):津々浦々の復興に立ち向かう文明史的な構想力を
それで、この会議での議論に期待した。
会議のメンバーは以下のようであった。
議長に五百籏頭真(前防衛大学校長、神戸大学名誉教授)、 議長代理に安藤忠雄(建築家、東京大学名誉教授)と御厨貴(東京大学教授)、特別顧問(名誉議長)として梅原猛(哲学者)、委員として赤坂憲雄(学習院大学教授、福島県立博物館館長)、内舘牧子(脚本家)ら12人。
期待できる人選である。
会議は、2011年4月15日に第1回会議が開催され、6月25日に第12回会議と共に、『復興への提言~悲惨のなかの希望~(平成23年6月25日 東日本大震災復興構想会議)』が発表された。
約70日の間に、12回。毎週土曜日に、5時間をとったという。
その成果については、さまざまな見方があろう。
⇒2011年7月11日 (月):震災復興会議の提言と「霞ヶ関文学」/花づな列島復興のためのメモ(2)
この会議はその後どうなったか?
11月10日に第13回会議が開催されたきりである。
6月25日の「提言」で役割は終えたということであろうか。
第13回会議の議事録の中に、赤坂憲雄氏が以下のような趣旨の発言をしているのが印象的であった。
コミュニティ形成の上で、神社や寺などの宗教的な施設が重要であることを再認識した。
宗教を含めた文化的な復興が、地域のアイデンティティという面で、決定的に重要だ。
しかし、現在の復興の状況を見ると、文化に対する予讃措置がほとんど取られていない。
問題は、「提言」よりもそれがどう「実施」されているかである。
文化に対する復興予讃について、典型的と思えるニュースがあった。
津波で壊滅した宮城県石巻市中心部に残る「石ノ森萬画館」をめぐり、先月26日の市議会で約7億5千万円の改修予算案が可決された。県出身の漫画家、石ノ森章太郎さんにちなみ平成13年に開館したが、震災後1年経ても休館している。
市は萬画館の改修費を復興交付金事業に申請しようとしたが、「復興庁から対象事業ではないと言われた」(市商工観光課)。市は復興交付金をあきらめ、文部科学省の補助などを使い、独自で予算化した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120408/dst12040809060001-n1.htm
復興構想会議は、この第13回会議で終了し、後継組織として復興推進委員会が設置されている。
東日本大震災の復興状況を調査する有識者会議「復興推進委員会」の初会合が19日、首相官邸で開かれ、野田佳彦首相は「被災地の声を受け止めて改めるべき点は改め、復興の取り組みを加速させたい」と述べた。同委員会は復興ビジョンなどの提言機関「復興構想会議」の後継組織で、メンバーは岩手、宮城、福島の3県の知事のほか、有識者ら計15人。委員長の五百旗頭真防衛大学校長は「どこが問題なのか政府と国民に語る機能を果たしたい」と述べた。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120319/plc12031919490012-n1.htm
是非、「単なる復旧ではなく未来志向の創造的な取組が必要」という初心を貫いて欲しい。
そしてそのために、地域固有のニーズに沿った施策が必要だと思われる。
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