歴史上の「天皇陵問題」/やまとの謎(62)
宮内庁の羽毛田信吾長官は、天皇、皇后両陛下の「ご喪儀」について、26日、火葬の方向で検討していくと発表した。
大正以降の天皇、皇后(皇太后)の陵は、東京都八王子市の武蔵陵墓地に造られたが、宮内庁によると、地形や広さの問題から徐々に用地確保が難しくなる見込み。羽毛田長官によると、両陛下はご喪儀について度々「極力、国民生活への影響を少ないものにすることが望ましい」と簡素化を希望し、「火葬が一般化しており、陵の規模や形式も弾力的に検討できる」との考えも示しているという。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120426-00000049-mai-soci
これは現代の天皇陵問題であるが、日本史の重要テーマに、「天皇陵問題」というものがあると井沢元彦氏は言う。
『日本史の授業2天皇論』PHP研究所(1202)によれば、以下のような問題である。
「天皇陵問題」というのは、古代から平安の前期ぐらいまでの間の天皇が葬られている古墳が、どの天皇のものかわからなく、宮内庁が「これが○○天皇の御陵である」と言っているものが、明らかに違うという問題なのです。
p77
矢澤高太郎『天皇陵の謎』文春新書(1110)の三浦佑之氏の書評(読売新聞111205)に、「研究が深まれば深まるほどわからないことがふえる」という言葉があった。
わが意を得た思いである。
このブログを書き始めて2年目の日に、「知れば知るほど、知らないことが増える」というパラドックスのような現象」について書いたことがある。
未知を意識するのは既知と未知の境界線であるが、それが既知が増加するに従い長くなることで説明できる、とした。
2008年8月 8日 (金):2年目を迎えて
学習理論の見地からは、正しいのかどうか分からないが、実感的にはこんな感じだと思う。
上記の書評で、三浦氏は、天皇陵について、「今までのように、宮内庁が発掘はもちろん天皇陵への立ち入りさえ認めようとしない状態が続くかぎり、被葬者は揺れ続け混迷は深まる。」と書いている。
考古学の知見は増えても、肝心の天皇陵はアンタッチャブルである。
「文藝春秋」3月号に、夢枕獏氏と矢澤光太郎氏の、『天皇陵に秘められた古代史の謎』という対談が載っている。
古代の天皇陵として名前が冠されているもののうち、真に天皇陵と言えるのは、用明、推古、舒明、天智、天武、持統だけである、という。
牽牛子塚古墳などは、斉明天皇陵の可能性がきわめて高い、といわれているにもかかわらず、宮内庁は比定の見直しをすることを頑なに拒んでいる。
⇒2010年9月10日 (金):牽牛子塚古墳は、斉明陵か?
⇒2010年12月10日 (金):大田皇女の墓?/やまとの謎(14)
宮内庁の天皇陵治定は、1881(明治14)年が最後である。
このとき、天武・持統天皇陵が見瀬丸山古墳から野口王墓古墳に、文武天皇陵が野口王墓古墳から栗原塚穴古墳に変わった。
卑弥呼の墓ではないかといわれる箸墓古墳も、7代孝霊天皇の皇女・ヤマトトヒモモソヒメの墓に治定されていて、発掘調査ができない。
宮内庁の言い分は、「陵墓の成案と尊厳を守るため」である。
しかし、エジプト、中国等の王墓の発掘に日本人学者が携わってもいっこうに問題にならないあるいは問題にしない。
このような唯我独尊的思考が、先の戦争(大東亜and/or太平洋戦争)の悲惨な帰結を招いたとも言えるだろう。
そして、その戦争に対して、天皇はまったく責任はないと言えるのだろうか?
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