『西郷の貌』と万世一系のフィクション/やまとの謎(61)
西郷さんといえば、われわれに馴染み深いイメージは、上野公園にある銅像だろう。
Wikipedia西郷隆盛像
実際に西郷さんの銅像を仔細に眺めてみる機会はそんなにはないが、恰幅の良い太鼓腹と太い眉で浴衣姿で犬を連れて散歩する。
些事にこだわらない人物というイメージであって、西郷の大衆的人気の大きな要因になってもいる。
この像は、高村光雲によるものである。
上記Wikipediaには、次のような解説が記されている。
西郷には信頼性のある写真が一枚も残っておらず、光雲は肖像画や弟の西郷従道の風貌を参考にした。銅像の建設委員長をしていた樺山資紀を助けて奔走していた子息の樺山愛輔は、銅像の顔は極めてよくできているが、光雲は西郷の特徴ある唇(何とも言えない魅力と情愛に弱いところが同居している唇)を最後まで表現しきれないことに苦しんだと書いている。公開の際に招かれた西郷夫人糸子は「宿んしはこげんなお人じゃなかったこてえ(うちの主人はこんなお人じゃなかったですよ)」と腰を抜かし、また「浴衣姿で散歩なんてしなかった」といった意の言葉(薩摩弁)を漏らし周囲の人に窘められたという。
注目したいのは、糸子夫人の言葉である。
「こげんなお人じゃなかった」「浴衣姿で散歩なんてしなかった」という言葉が本当なら、西郷隆盛のイメージをミスリードするような銅像である。
高村光雲ともあろう作家が、なぜそんな作品を作ったのか?
われわれが馴染み深いのは、次の肖像画であろう。
西郷隆盛のホームページ「敬天愛人」
加治将一『西郷の貌』祥伝社(1202)は、この点に着眼した小説である。
具体的に書くとネタバレになる恐れがあるが、流布している西郷のイメージと実際の西郷とは乖離していた。
何故か?
そこに教科書では教えられない明治維新の裏面史がある。
明治政府には西郷の本当の顔を封じ込めなければならない理由があったのだ。
いわゆる南朝正閏論を背景としている。
Wikipediaでは次のように説明している。
南北朝正閏論(なんぼくちょうせいじゅんろん)とは、日本の南北朝時代において南北のどちらを正統とするかの論争。閏はうるう年の閏と同じで「正統ではないが偽物ではない」という意味。
女性宮家創設問題をめぐって、万世一系の皇統論が盛んに主張されている。
しかし、万世一系などはフィクションに過ぎないと思う。
その一端を材料にした小説である。
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