官邸が隠した“悪魔のシナリオ”とは?/原発事故の真相(25)
「文藝春秋」の4月号に、「3・11日本人の反省」という特集記事が載っている。
その中に、2月28日に発表された「民間事故調」(民間有識者でつくる「福島原発事故独立検証委員会」の実施主体である一般財団法人日本再建イニシアティブの理事長船橋洋一氏の、『機密文書 官邸が隠した原発悪魔のシナリオ』というオドロオドロシイ文章が載っている。
タイトルは船橋氏がつけたのか編集部がつけたのか分からないが、「悪魔のシナリオ」を「官邸が隠した」とはどういうことか?
⇒2012年2月29日 (水):民間事故調報告書/原発事故の真相(18)
“悪魔のシナリオ”(最悪シナリオ)については、既に触れたことがある。
⇒2012年1月24日 (火):議事録の不作成は故意か過失か?/原発事故の真相(17)
同シナリオは、菅前首相の要請で、昨年3月25日、近藤駿介原子力委員会委員長が作成した「福島第1原子力発電所の不測事態シナリオの素描」という文書である。
政府高官の一人は「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」と言明。別の政府関係者は「文書が示された際、文書の存在自体を秘匿する選択肢が論じられた」と語った。
最悪シナリオの存在は昨年9月に菅氏が認めたほか、12月に一部内容が報じられたのを受け、初めて内閣府の公文書として扱うことにした。情報公開請求にも応じることに決めたという。
細野氏は今月6日の会見で「(シナリオ通りになっても)十分に避難する時間があるということだったので、公表することで必要のない心配を及ぼす可能性があり、公表を控えた」と説明した。
政府の事故調査・検証委員会が昨年12月に公表した中間報告は、この文書に一切触れていない。
http://www.47news.jp/47topics/e/224789.php
政府の事故調査・検証委員会の最終報告が終わりもしていない段階で、再稼働の安全基準を「最終決定」するというのもアクロバティックだと思うが、「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」では、何のために不測事態シナリオを検討したのか分からない。
民間事故調は、最悪シナリオを入手し、その作成プロセス、内容、伏せられた経緯を調査した。
昨年の3月14日から15日にかけて、2号機と4号機の状況が悪化する中で、官邸筋は「最悪シナリオ」を想定する必要を感じ始めていた。
最悪シナリオを想定するミッションは、本来は斑目原子力安全委員長であったが、12日の水素爆発の説明でミソをつけたことから、近藤原子力委員長に作成を依頼した。
作業は3日間の突貫作業で行われた。
シナリオは、以下のような事象を想定した。
①水素爆発によって、他の原子炉からも放射性物質が放出が続く。
→20kmという避難区域の範囲を変える必要はない。
②4号機プールの燃料破壊とコアコンクリート相互作用が発生。
→50kmの範囲は速やかに避難
③他の号機でのコアコンクリートの相互作用が発生。
→住民を強制移転しなければならない地域が半径170km以遠に及び、移転希望認めるべき地域が半径250km以遠にまで及ぶ。
使用済み燃料プールの燃料破壊が起こり、コアコンクリート相互作用が起きる場合を「最悪シナリオ」だということであるが、コアコンクリート相互作用とは、いかなる反応か?
Wikipediaに次のような説明がある。
2012年2月初めに、菅元総理大臣の要請により、内閣府の情報開示で入手した、福島原発事故の最悪シナリオ「近藤原子力委員長のメモ」が、公開された。
このメモの15ページ「線量評価結果について」に於いて、水素爆発が発生したとしても半径20 km圏内という避難区域を変える必要はない。しかし、4号機の使用済み燃料プールの燃料損傷が発生しそこから複数の号機の使用済み燃料プールでコアコンクリート相互作用(溶融燃料コンクリート相互作用、MFCI)が発生した場合、170 km以遠の地域にも強制移転を求めることが必要になる可能性があるということを述べている。
又、メモの10ページの「放出シーケンス」「被ばく線量評価結果」(放射性物質の放出予想)が示されており、グラフと表により、4号機(炉)の使用済み燃料プールからの放射性物質の放出量が大きく、避難規模に大きく影響される事が示されている。
MFCIについて調べてみると、Moltem fuel coolant interaction(溶解燃料冷却剤相互作用)のことだというが、結局よく分からない。
ただ、首都圏全域が避難しなければならない危機もあり得たということだろう。
そのどこまで進行したのかも詳らかではない。
そんな状態で、原発再稼働に突き進んでいる政権は、自滅願望に囚われているとしか思えない。
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