地名論あれこれ/花づな列島復興のためのメモ(41)
名前はもっとも端的にアイデンティティを表すものだろう。
地名は、土地のアイデンティティを表している。
三島市生まれで裾野市在住の大岡信さんに「地名論」という詩がある。
水道管はうたえよ
御茶の水は流れて
鵠沼に溜り
荻窪に落ち
奥入瀬で輝け
・・・・・・
燃えあがるカーテンの上で
煙が風に
形をあたえるように
名前は土地に
波動をあたえる
土地の名前はたぶん
光でできている
・・・・・・
波動とは何か?
光とは何か?
まあ、詩人の意図はともかく、これらの比喩が、生命的なものを表している、と大雑把には解釈していいだろう。
その地名が、どうも軽く扱われているような気がする。
1つは、いわゆる「平成の大合併」により、由緒ある地名が消え去った。
⇒2009年6月19日 (金):太宰治と三島・沼津(2)
代わりに新しい地名も誕生している。
山梨県の南アルプス市など、賛否両論あるだろうが、私はまあこれもアイデンティティの表現で、当該市民の皆さんが賛成であれば、いいだろうと思う。
⇒2007年8月19日 (日):プチ旅行①湯の宿
たとえば愛媛県の四国中央市はどうだろうか?
市の公式サイトによれば、以下のような特徴を持っている。
当市は愛媛県の東端部に位置し、東は香川県に面し、南東は徳島県、更に南は四国山地を境に高知県と4県が接する地域となります。県都松山市と高松市へは約80 ㎞、高知市までは約60 ㎞、徳島市までは約100 ㎞、大阪市へ約300 ㎞、東京都まで約800 ㎞の距離にあります。
・・・・・・
また、当市は高速道路網の整備により、三島川之江・土居・新宮の3つのインターチェンジと川之江ジャンクションを持ち、四国の「エックスハイウェイ」の中心地となっており、県の県庁所在地のいずれにも、ほぼ1時間で結ばれるという好条件にあります。
https://www.city.shikokuchuo.ehime.jp/modules/tinyd2/index.php?id=1
確かに、四国の中央とはいえるだろう。
ところが地名に造詣の深い谷川健一氏(日本地名研究所所長、南方熊楠賞受賞)は次のように批判している。
藤原正彦氏の「国家の品格」 に倣って「地名の品格」という観点から見ると、品格のない地名がおびただしい。その筆頭は四国中央市である。これは四国のどの県の県庁所在地からも車で一時間ぐらいの距離にあり、 道州制が実施された際に、州都になろうというもくろみが含まれていて、命名されたものであるという。この地域は平安時代の「和名抄(わみょうしょう)」に宇摩郡とあり、現在も宇摩郡である。公募でも それにふさわしい「宇摩市」が一番多かったと聞く。それをど のような意向がはたらいて、このような恥ずかしい地名を選んだのか。
http://www.zck.or.jp/article/tanigawa/index.html
全面的に賛成である。
もっとも、南アルプス市や伊豆の諸市町などについても谷川氏は手厳しく批判しているが。
山梨県は南アルプス市が誕生した。アルプスという外来語を地名に使用した初めての例。これでは銀行名やスナックの名前とまちがわれる。 南アルプス市に合併した六町村のうち、南アルプスの山が見え るのは、旧芦安村だけである。 静岡県には伊豆半島に、「伊豆 の国市」「伊豆市」「西伊豆町」の二市一町が出現した。「伊豆の国市」などは遊園地の名前のような市である。しかもこの三市はせまい地域にひしめきあっているのである。このような命名を誰が許したか。それを認可した行政の責任は、きびしく問われるべきである。
同上
私がもっと驚いたのは、大阪府の泉佐野市である。
財政危機状態の同市が、市の名前を売りに出したという。
いわゆるネーミングライツである。
破綻一歩手前の大阪府泉佐野市は新たな歳入確保策として、企業から広告料をもらう代わりに市の名称を企業名や商品名に変更する自治体名の命名権(ネーミングライツ)売却に乗り出すことを決めた。契約期間は1~5年で、国内外の企業を対象に6月から11月末まで募集し、広告額は企業から提案してもらう。自治体名の命名権が売却されるケースは総務省でも「聞いたことがない」(市町村体制整備課)という。名称変更は議会過半数の賛成で可能だが、市民からの反発も予想される。
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120321-OYO1T00720.htm?from=top
市民の反発は当然だろう。
谷川さんは以下のような文章で締めくくっている。
地名は日本人が過去とつながっていることを証明するもっ とも身近かな民族の遺産である。それを顧慮せず、地名を改 竄することは、歴史の改竄にほかならない。過去をおろそかに扱う国民に未来はない。過去と未来が断絶したとき日本人のアイデンティティの生まれようがない。地名は日本人の誇りであ るという自覚の上に立って、由緒のある地名を大切にしていかねばならない。
私が言うようなことではないだろうが、由緒や伝統をもう少し大切にしたいと思う。
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