ころんじゃった/闘病記・中間報告(40)
『「白泉句集」によせて』において、四方一や(サンズイ+彌)さん(句碑建立委員会代表)は次のように書いている。
新進気鋭の俳人として、厳しい社会批評に満ちた俳句を発表したが、日中戦争も戦線の拡大、長期化の様相を呈し、軍部も焦燥感を強めていった昭和十四年には、
戦争が廊下の奥に立ってゐた
憲兵の前ですべってころんじゃった
など独走する軍部を揶揄した俳句史上に残る多くの人間味溢れる名句を詠んでいる。
⇒2007年11月16日 (金):渡辺白泉
⇒2012年1月17日 (火):渡邊白泉/私撰アンソロジー(14)
「憲兵の・・・」の句は、憲兵というものがない時代に育った私には、必ずしも十分に理解はできないが(幼時、進駐軍のMPには馴染みがある)、俳諧の本質である諧謔みを帯びた反戦句といえよう。
白泉の句は、新興俳句の砦であった「京大俳句」に掲載された。
1920年(大9)発会式に虚子も出席して三高在学生による句会が創設される。(誓子も入会)その後、京大関係の俳句会として京大俳句会の名のもとに活動するが、35年(昭10)学外にも門戸を開放し、三鬼、窓秋、白泉、石橋辰之助、三橋敏雄ら有力俳人、新鋭俳人が参加、新興俳句ー新興無季俳句運動の中核となっていく。
日中戦争が始まると、積極的に戦争に取材し、反戦、厭戦の句も作られ、意気軒昂たるものがあった。
病院船牧牛のごとき笛鳴らし 静塔
燃えてゐる女の顔に征く軍歌 波止影夫
タンク蝦蟇の如く街に火を噴きつ 仁智栄坊
我講義軍靴の音にたたかれたり 井上白文地
憲兵の前ですべってころんじやつた 白泉
・・・・・・
先ず川柳作家の戦争風刺作品が槍玉に挙げられるが、京大俳句会の俳人たちは、当局にとって怪しからぬ俳句かも知れないが、反国家的な共産主義者の片棒を担ぐようなことはしていないし、それと新興俳句を快く思っていない俳人の策動だとたかをくくっていたふしがある。
http://wind.ap.teacup.com/bunngakuhaiku/42.html
弾圧の理由など、つけようと思えばどうにでもなる。
甘く考えてはいけないことを教訓にしなければならない。
白泉句ではないが、私も散歩の途中、平坦な道で「ころんじゃった」。
ハビリを続けている者にとって、大きな脅威が2つある。
1つは再発であり、もう1つは転倒である。
発症が突然だっただけに、いつまた再発するか予測がつかない。
薬を飲んで、血圧をウオッチングして、あとは定期的な検診を受けてはいるが、万全ではないことは自分が一番よく承知している。
幸いなことに、今のところ、各種データ的には、発症前よりも健全であるが、データは一部の器官なり機能の状態を示すだけで、再発の確率がどの程度かというような定量的なレベルの話はできない。
転倒については、身近に見てもいるし、話にも聞く。
それまでのリハビリを無化しかねない。
かといって、家に閉じこもっているわけにもいかないので、可能な限り自分で注意するしかない。
リハビリ中でなくても、高齢化するに従い、足が上がりにくくなるので、転倒しやすくなる。
大腰筋などの体幹深部筋が弱くなるからである。
高齢者が転倒し、入院すると、急速に足腰が衰える。
場合によっては、そのまま寝たきりの状態になってしまう。
したがって、転倒しないように気を使う。
しかし、余り神経をそっちの方に集中させると、動き自体が不自然なことになる。
療法士(理学、作業共に)の人は、「力を抜いて」と言うが、一所懸命の動作中に、意識して力を抜くのは難しい。
後遺症のある身には、自然体自体が不自然なのである。
天気の良い日はなるべく散歩にでるようにしている。
麻痺側の右足は時々、引っかかる。
周りの人はビックリするが、右足の力が弱いこともあることが理由だと思うが、意外に転倒するところまではいかないものである。
足が引っかかる頻度は、徐々に低下してきている(と思う)。
たとえば、1年前に比べれば、瞭然だろう。
そんな状況で、油断があったのかも知れない。
幸いにして、骨折などはなく、両手に多少の擦過傷がある位で済んだ。
しかし、無意識のうちに、右半身をかばったのであろうか、左手の打撲による痛みが引かない。
通院中の病院の医師に尋ねると、2~3週間はかかるものだ、と軽く言われた。
しかし、頼みの左手が不自由なので、気分的に落ち込む。
たとえば、ペットボトルの蓋が回せない。
転倒して、渡邊白泉の代表句を思い浮かべた。
春うらら平らな道でころんじゃった
春うららは、季語として認めない結社も多いが、ここではどちらでもよい。連戦連敗の競走馬ハルウララを導き、自分の人生と重ね合わせることを意図している。白泉句の本歌取り、などと自解してみても、サマにならないなあ。
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)(2019.04.07)
- 暫時お休みします(2019.03.24)
- ココログの障害とその説明(2019.03.21)
- スキャンダラスな東京五輪/安部政権の命運(94)(2019.03.17)
- 野党は小異を捨てて大同団結すべし/安部政権の命運(84)(2019.03.05)
「闘病記・中間報告」カテゴリの記事
- iPS細胞から脳を作製/闘病記・中間報告(60)(2013.08.31)
- 認知症の原因としての情報不全/知的生産の方法(42)(2013.03.15)
- 『脳の中の経済学』と将来事象/闘病記・中間報告(59)(2013.02.25)
- 『<老い>の現在進行形』と未病の概念/闘病記・中間報告(58)(2013.01.28)
- 「湯たんぽ」の<候・効・好>考/闘病記・中間報告(57)(2012.12.28)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント