冷温停止の大本営発表/原発事故の真相(22)
野田首相は、昨年の12月16日に、福島原発事故について、「事故そのものは収束に至った」と宣言した。
しかし、客観的にみて、とても収束したとは言えないだろうという状態だった。
⇒2011年12月17日 (土):フクシマは「収束」したのか?/原発事故の真相(14)
⇒2012年3月14日 (水):冷温停止「状態」とは?/原発事故の真相(20)
野田首相は、なぜ「収束」に拘ったか?
今西憲之+週刊朝日取材班『福島原発の真実 最高幹部の独白』朝日新聞出版(1203)には、その答のヒントが詰まっている。
著者は、関係者以外立ち入り禁止の現場で取材を敢行した。
それによって、記者会見では決して得られない臨場感ある情報を入手した。
今後の原発あるいはエネルギー政策を考える人は必読だと思うが、そのような立場にいる人は、おそらく斜め読みもしないだろう。
私が「臨場感ある」というのは、たとえば問題となった海水注水中断問題の様子である。
本店からの指令を受け、フクイチ対策本部の室内は、怒りが頂点に達した。
メモには、こうある。
<おこる、こぶし>
吉田所長の拳が震えていたのだ。
「オレたちは命かけてやってんだよ。なにが総理の判断だ」
「いまやらなきゃ、とんでもないことになるんだよ。わかっちゃいない」
「そんなことばかり、上ばかり見ているから、だから本店はダメなんだ」
と言う幹部たちの怒声が、対策本部に響いた。
p52
もちろん、現場の声といっても、書かれたものは必ず何らかの意図が加わっている。
言い換えれば、認識の編集が行われている。
東電という会社の、本店(本社)と現場の間には明らかに乖離がある。
われわれが今までメディアを通じて接触しえた情報は、記者会見により示された見解だ。
それは、本店側の見解であり、あるいは政府の意向を踏まえたものである。
⇒2011年4月17日 (日):原発報道の大本営発表/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(9)
野田首相が「冷温停止すなわち収束」を急いだ最大の理由は、就任早々の国連演説のせいであった。
野田政権は9月2日に発足したのだが、野田首相が外交デビューの舞台に選んだのは、9月22日の国連本部での演説だった。
野田佳彦首相は22日朝(日本時間同日夜)、ニューヨークの国連本部で開かれた原子力安全に関するハイレベル会合で演説した。首相は東京電力福島第一原発事故について「原子炉の冷温停止状態について、予定を早めて年内をめどに達成すべく全力を挙げている」と説明。来年1月中旬をめどとしてきた事故収束の達成時期を年内に前倒しする考えを表明した。
首相は演説で「事故は着実に収束に向かっている」と強調。首相が明言したことで事実上、年内収束は国際公約となった。
http://www.asahi.com/politics/update/0922/TKY201109220660.html
事故収束の国際公約をした以上、その公約が達成されたような形を作る必要があったのだ。
しかし、この頃現場の状況は以下のようだった。
原発内は放射線量が高く、作業員が立ち入れない場所が多く残っていた。不確定要素は、何も解消されていなかった。その証拠に、東電は9月21日、フクイチの原子炉建屋やタービン建屋などに流れ込んだ地下水が約3万5千トンにのぼることを発表した。さらに大量の地下水が流れ込めば、放射能汚染水が外にあふれ出すという深刻な事態に陥る危険がある。
つまり、野田首相がぶち上げた「年内の冷温停止」は、多くの不確定要素を無視した「希望的観測」にすぎなかった。それなのに、なぜ政府と東電は、このタイミングで希望的観測はおろか、世界へ向けて発信したのか。
そこにあったのは、現場の作業員たちの日々の努力を無視するかのような、自己都合の“思惑”だった。
p118
そして、12月16日の「収束宣言」となる。
それは予め決まっていた予定調和としての宣言であった。
その頃の実際の状況は以下のようである。
こんな宣言をしたからといって、フクイチが劇的に改善されたわけではない。外国メディアからは、見透かされたように「何の意味もない」と総スカンを食った。
実際、現場に突きつけられた危機的状況は、何も変わっていなかった。この宣言後も、フクイチでは、汚染水の浄化システムの配管で水漏れが相次ぐなど不安定な状態が続いた。
・・・・・・
東電はこれまで、格納容器内の圧力値をもとに容器の底から4.5メートルに水面があると推定していた。しかし、この(内視鏡による)調査では、その地点に水面はなかった。
p132
上記は、一国の首相の宣言が、いかに空疎なものでしかなかったかを示している。
「収束宣言」など、なんの意味もないのが実態である。
事故発生当初より、大本営発表をメディアは流し続けてきた。
それは私でも、疑わざるを得ないものであったが、実態に関する報道に接し得なかった。
どうやらようやく真実の姿の一部が姿を現してきたようである。
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コメント
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投稿: Hurley23Jocelyn | 2012年4月 3日 (火) 07時21分