変曲点の時代?/花づな列島復興のためのメモ(37)
東北地方太平洋沖大地震は貞観以来の規模、リーマンショックは100年に1度のインパクト、貿易赤字は31年ぶりと報じられている。
こう並べてみると、現在が歴史的な大きな変動の時期にあるように思われる。
五木寛之さんの『下山の思想』幻冬舎新書(1112)がベストセラーになっている。
私は五木氏の良き読者でなくなって久しいが、初期の印象は鮮烈であった。
五木寛之さんは、下記のように、東京都知事の石原慎太郎氏と同じ日の生まれである。
石原慎太郎・・・・・・1932年〈昭和7年〉9月30日生まれ
五木寛之・・・・・・・・1932年〈昭和7年〉9月30日生まれ
石原氏が芥川賞選考委員を退任したという。
芥川賞受賞者の田中慎弥さんが「断ったりして気の弱い委員の方が倒れたりしたら、都政が混乱するので。都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」といって話題になった都知事閣下その人である。
年齢は関係ないというかも知れないが、やはりもっと若い感性の出番があるべきだと思うので、石原氏の退任は結構なことだろう。
その退任インタビューで意外だったのは、高橋和巳の評価である。
芥川賞選考委員を退任 石原慎太郎さん
いい作家だった」と名前を挙げるのは、密度の高い文体で、60年代に『悲の器』『邪宗門』など社会を鋭くえぐり出す作品を書いた高橋和巳。「小説は本当に下手だったけど、エネルギーがあった。それなのに若くして死んで、ショックを受けた
私の感覚では、およそ対極に位置しているような2人だが、文学者としてやはり見るべきものは見ていたのだと改めて思う。
ちなみに高橋和巳は1931年8月31日生まれだから、石原、五木両氏より1歳上である。
退任インタビューからもう1カ所引用する。
高見順さんがよく『作家にとって大事なことは時代と寝ることだ』と言ってたけど、僕なんかは時代と一緒に寝られたし、自分の青春が戦後日本の青春と重なったありがたさは感じますよ
確かに石原氏は時代と同期するという幸運にも恵まれていた。
「作家にとって大事なことは時代と寝ることだ」という言葉で、私は同日に生まれた五木さんのことを思い浮かべる。
デビュー以来、五木寛之さんは、一貫してこの言葉がふさわしい人だったのではないかと思う。
⇒2011年3月22日 (火):津々浦々の復興に立ち向かう文明史的な構想力を
その五木さんの現時点の到達点が『下山の思想』ということだろう。
しかし、すでに4半世紀前に、西村吉雄『硅石器時代の技術と文明―LSIと光ファイバーがつくる"新農耕文化" 』日本経済新聞社(8508)において、著者は、「山を越えたら下りるほかはない。下りたところの高さは超えてきた峠の向こうがわと同じである。未来は過去と似てくるだろう」という認識を示していた。
⇒2012年2月28日 (火):硅石器時代とエルピーダの破綻/花づな列島復興のためのメモ(29)
五木さんの言う『下山の思想』とは、西村さんとほぼ同じ認識ではないか。
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