餓死という壮絶な孤独/花づな列島復興のためのメモ(26)
よく言われることだが、「人間は1人では生きていけない」。
思考実験として、絶海の孤島に漂着したロビンソン・クルーソーの物語が取り上げられる。
特に、分業と交換を大きなテーマにしている経済学はお好きなようである。
しかし、ロビンソンの物語は、結局はフィクションに過ぎない。
似たような実例がないわけではない。
たとえば、フィリピンのルバング島で29年を過ごした小野田寛郎さんのような場合がある。
しかし、小野田さんは、鍛えられた軍人であり、明確な目的を持って、自らの意思で孤絶した生活を選択した。
最近報じられている「餓死」の例は、まったく様相が違う。
東京都立川市の中心部にあるマンションで今月中旬、死後約二カ月が過ぎた成人女性と男児の遺体が見つかった。警視庁立川署によると、遺体は二人暮らしの無職の母親(45)と知的障害のある息子(4つ)とみられ、母親がくも膜下出血で死亡した後、息子が何も食べられず、助けも呼べず、衰弱死した可能性が高い。
4歳障害児 衰弱死 母病死 1人で食事できず
このニュースに、私には涙なしには接することができない。
4歳と言えば、かわいい盛りではないか。
母子はいかなる事情で「二人暮らし」をしていたのか?
父親は、生きているのか、連絡が取れないのか、あるいは死別ということなのか?
無職の母親と知的障害のある息子は、4年間どういう生活をしていたのか?
数々の疑問が湧くが、4歳の児童が、何も食べられずに衰弱しながら死んでいくというのは、余りにも痛ましい。
くも膜下出血で死亡したと推定されている母親は、発症してから意識はあったのかなかったのか?
息子は母親の死をどう捉えたのだろうか?
さいたま市北区吉野町のアパートで親子とみられる男女3人が遺体で発見された事件で、3人は秋田県大館市から転居し、建築関係の仕事をしながら暮らしていたことが、捜査関係者などの話でわかった。一方で、近所の女性宅に妻が借金を申し込むなど、生活に困っていた様子も浮かび上がった。
捜査関係者などによると、3人は11年前にアパートを借りた際、当時の管理会社に秋田県大館市の住民票の写しを示していた。住民票の生年月日から計算すると、現在の年齢は夫は64歳、妻は63歳、息子は39歳となるという。
3人は秋田から転居 近所に借金申し込みも
仮に、記事の通りに親子だとすれば、どういう事情が考えられるだろうか?
息子は39歳とすれば、まさに働き盛りである。
普通なら、仕事が面白くて仕方がないというような年齢だろう。
両親の64歳あるいは63歳という年齢も、今時働いている人の方が多いのではないか。
以前にも、病気で寝たきりだった息子と母親が遺体で発見されたことがある。
金銭的に恵まれている職業とそうではない職業はあるだろう。
長期間継続している不況により、仕事がなかなか見つからないということもあろう。
しかし、いわば潜在的な働き手が3人揃っていて、餓死するに至る社会とは。
飽食といわれている時代、ペットでさえ栄養過多が心配されている時代だというのに。
私たちの社会は、敗戦後の焼け野原の時代から、何を獲得してきたのだろうか、と思う。
セーフティネットなどという言葉はどこへ行ったのか。
すべては自己責任ということか。
親の死亡届を出さずに、年金を不正に受給していた事件が発覚したのは、1年半ほど前のことである。
⇒2010年8月28日 (土):非実在年金受給者
その背景の1つに、家族の「絆」が弱まっていることが挙げられよう。
⇒2010年8月18日 (水):戦後史と“家族の絆”の行方
⇒2010年8月25日 (水):“家族の絆”は弱まっているか?
⇒2011年3月23日 (水):震災を耐え抜いた家族の絆
⇒2011年12月12日 (月):今年の漢字は、「絆」?
しかし、所詮付け焼き刃の「絆」のようにも見える。
ガレキ処分の協力はすべきだと思うが、自分の市町村には持ち込まないで欲しい。
そういう住民パワーの壁に遮られて、被災地の復興は遠ざかる。
そうして失われていく時間は永久に取り戻すことはできない。
餓死した人の命もまた同様である。
たまたま「餓死していた」という報道が相次いでいるのか。
「珍しいからニュースになる」ということだろうか。
米原子力規制委員会(NRC)が東京電力福島第1原発事故発生直後、のやりとりなどを記録した内部文書を公表した。
対策本部の議事録が存在しないというわが国と比較するなという方がムリであろう。
結局、わが国は未だ後進国なのだ。
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