小沢強制起訴裁判で墓穴を掘るのは誰か?
「首相にふさわしい政治家は誰か?」というような世論調査がある。
たとえば、最近では以下のような結果を目にした。
首相にふさわしい政治家 岡田氏が初のトップ
2012.2.13 18:57 [世論調査]
まあ、今のところ、首相公選ではないので、余り意味はないのかもしれない。
しかし、現首相の野田氏は、民主党の中でもやっと5指に入るという結果だった。
私は小沢一郎氏が首相にふさわしいとは思わないが、それ以上に岡田氏について疑問を持っている。
小沢民主党元代表が政治資金規正法違反容疑で強制起訴されている裁判についての違和感は既に記した。
⇒2012年2月18日 (土):小沢裁判に対する疑問
この裁判は、何やら「真昼の暗黒」ともいうべき様相を示し始めている。
「真昼の暗黒」は、1956年に公開された今井正監督、橋本忍脚本の映画作品で、原作は、正木ひろし『裁判官―人の命は権力で奪えるものか』。
単独犯だった犯人が罪を軽くすることを目的に知り合い4人を共犯者に仕立てた八海事件がモデルである。
映画のタイトルは、アーサー・ケストラーの小説から。
ソ連での自白強要と粛清の惨状を告発した小説で、以下のような内容である。
革命の英雄であった主人公は、ある日突然逮捕され、尋問され、やがて「人民の敵」として罪を自白し処刑される――その過程をえがいた政治的寓話の傑作。刊行されたのは『1984年』よりも前だったのですね。尋問シーンはオーウェルにも大いに影響を与えていると思うが、大きく違うのは「党/体制」側の人間の描き方。スターリニズムの公式イデオロギーと、〈党〉の論理の語らせかたにリアリズムがあるから、同じイデオロギーと思考法を持つ主人公が、いかに論理的に追い詰められてゆくのかをきちんと描いている。オーウェルのように「この指は何本に見える」なんて言わせていない。
茶番劇としての自覚が双方にあり、いかにきれいにゲームを終わらせるか、冷酷無比な政治の論理のなかで、ともにオールド党員である主人公と検事イワノフとのやりとりは、ひじょうにシニカル。ブハーリンはなぜ人民裁判で土下座しやすやすと銃殺されたのか。『ブハーリン裁判』(鹿砦社)を読んでもその理由はけっして浮かび上がってこないのだが、ケストラーはみごとにその政治的卑屈の起源を説き起こしていると思った。
http://d.hatena.ne.jp/tadanorih/20090830/1251635821
上記でも触れられているが、G.オーウェルの『1984年』はよく知られている。
幸いにして、実際の1984年がオーウェルが描いたのとは異なっていた。
ただ、北朝鮮などの国の内情はどうなのか、よく分からないし、情報技術の発達によって、より巧妙に、よりソフトに、国民の監視が行われているのかも知れない。
⇒2010年8月14日 (土):ジョージ・オーウェルの『1984年』-個人情報の監視と保護
私が「真昼の暗黒」を連想したのは、日本映画のことでもあり、アーサー・ケストラーの小説でもある。
すなわち、他人の自白による冤罪や、昨日の友は今日の敵といった政治の姿である。
今日の読売新聞に次の記事が載っている。
東京京地検特捜部所属だった田代政弘検事(45)が作成した捜査報告書に虚偽の記載があった問題で、上司だった副部長がこの記載を別の捜査報告書で引用し、小沢被告の関与を示す要素と評価していたことが21日わかった。
田代検事による虚偽の記載が、上司の報告書にも影響を及ぼしていたことになる。これらの報告書は、小沢被告を起訴すべきだと議決した東京第5検察審査会に提出されていた。
副部長が作成した捜査報告書は、不起訴となった小沢被告に対する再捜査中の2010年5月19日付で、部長に提出され、小沢被告を再び不起訴とする際の判断材料の一つとなった。
この中で、田代検事が同会元事務担当者・石川知裕衆院議員(38)の再聴取について記載した5月17日付の報告書の一部を引用。石川被告が「親分を守るためウソをついたら選挙民への裏切りだと検事に言われ、小沢被告の関与を認めた」という趣旨の説明をしたとする部分だったが、この発言は実際にはなかったことが石川被告の隠しどり録音から後に判明した。
陸山会事件、虚偽記載引用し別の報告書
まるでよくできたブラックジョークのようではないか。
政治資金の収支の虚偽記載で起訴されている根拠が、虚偽記載の捜査報告書だというのである。
「隠しどり録音」がなかったら、どういうことになっていたのか。
私は、菅、野田の民主党政権は、反小沢を旗幟にすることで一時的な支持を得たが、結局それが命取りになるのではないかという気がする。
特に、小沢処分の責任者である岡田幹事長(当時、現副総理)は苦しい立場になるだろう。
⇒2011年2月25日 (金):民主党の小沢処分をどう考えるか?
野田首相は、岡田氏を副総理兼税年金一体改革相に据えたが、公務員改革について、国家公務員の給与を2年間だけ、7.8%削減するということのようだ。
しかも、東日本大震災への支援金という位置づけだという。
2年間だけ?
東日本大震災への支援金?
いずれについても、姑息というべきであろう。
ガレキの処理が住民の反対などで遅々として進まないことが報道されている。
「絆」はどこへ行った、とおもうが、根底に政治(府)不信があることが大きな要因ではないか。
⇒2012年2月 1日 (水):議事録なくして、歴史の評価は可能か?
この裁判の行方は分からない。
しかし、冷静に考えれば、虚偽記載の捜査報告書に基づいて強制起訴とした検察審査会制度のあり方が改めて問われることになるのではないか。
この裁判が、反小沢のために利用しようとした菅、野田、岡田氏らの墓穴になるのは自業自得だろうが、法的正義に対する信頼を危うくするとしたらより深刻な問題ではなかろうか。
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