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2012年2月 6日 (月)

地震の発生確率の伝え方

首都圏における直下型地震の発生確率をめぐって、さまざまな情報が飛び交っている。
発端は、読売新聞が、東大地震研の研究チームがM7クラスの地震が発生する確率を試算したと報じたものらしい。

マグニチュード(M)7級の首都直下地震が今後4年以内に約70%の確率で発生するという試算を、東京大学地震研究所の研究チームがまとめた。
東日本大震災によって首都圏で地震活動が活発になっている状況を踏まえて算出した。首都直下を含む南関東の地震の発生確率を「30年以内に70%程度」としている政府の地震調査研究推進本部の評価に比べ、切迫性の高い予測だ。
昨年3月11日の東日本大震災をきっかけに、首都圏では地震活動が活発化。気象庁の観測によると12月までにM3~6の地震が平均で1日当たり1・48回発生しており、震災前の約5倍に上っている。
同研究所の平田直教授らは、この地震活動に着目。マグニチュードが1上がるごとに、地震の発生頻度が10分の1になるという地震学の経験則を活用し、今後起こりうるM7の発生確率を計算した。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120122-OYT1T00800.htm

たしかに、70%の確率でも、「30年以内」と「4年以内」では受ける印象は全然違う。
たとえば、現在67歳の私が30年後に生存しているとは思わないが、4年後ならば多分まだ生きているだろう。
読売新聞は、そのギャップをうまく衝いた。
各メディアは、この話題を追いかけた。
センセーショナルなほど訴える力は強い。
首都圏は壊滅的な状況になる、避難者は100万単位・・・

かといって、個人はどうすればいい?
まあ、自分は何とかなるだろう。何とかならなければ、その時はしょうがない・・・
そんな風に思っている人が多いのではないだろうか?

ところが、「夕刊フジ」(7日-6日発行)に、東大地震研が「4年以内に50%に下方修正」という記事が載っていた。

東大地震研の平田氏らのチームが再計算したところ、4年以内で50%以下、30年以内では83%以下になったという。
そもそも70%の根拠は、昨年3月11日から9月10日に首都圏で約350回発生したM3以上の地震を元にしたためで、これを12月31日までに期間を広げて再計算したところ、M3以上の地震が減っていることから、修正値になったとしている。
これに先立ち、京都大学防災研究所の遠田晋次准教授らが今年1月21日までに起きた地震を踏まえて計算した結果では、5年以内に28%、30年以内に64%とより低い値を出していた。

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20120206/dms1202061542008-n1.htm

計算の根拠は、「グーテンベルク・リヒターの関係式」といわれる式である。
以下のように解説されている。

あるマグニチュード の地震数()は、
Ws000000_3
の関係に従う。積算地震数()についても同様である。この式は、提唱者の名前を取って「グーテンベルク・リヒターの式」と呼ばれる。以下ではGR式と略記することにしよう。この関係はどのマグニチュードを用いても成り立つので、地震の規模を単にと表記した。
GR式の係数は、ほとんどの場合1前後の値となる。従って、が1だけ小さくなると地震の数はおよそ10倍になる。ただし、詳しく調べると値に地域性が見られる。一般に、地下構造が複雑で不均質な場所では値が大きい。

http://www.k-net.bosai.go.jp/k-net/gk/publication/1/I-3.2.4.html

菅首相(当時)が、浜岡原発の停止要請をした際にも、「これから30年以内にマグニチュード8以上の東海地震が発生する可能性は87%」といかにも2桁の精度がある根拠のように取り扱った。
⇒2011年5月12日 (木):地震の発生確率の意味/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(26)
しかし、地震の発生確率の予測はそんなに精度が高いものだろうか?
東北地方太平洋沖地震も「想定外」という以上、予測の限界は常に意識すべきだろう。
GR式自体、おおよその傾向はこの式に従うといことであり、予測の1つの参考データに過ぎない。

GR式によれば、数は極端に少ないがどんな大きな地震でも起きてよいことになる。しかし、これは明らかに現実と合わない。日本付近では、が8より大きくなると、実際の地震数は、きれいな直線関係から徐々に下側にはずれてくる。このはずれ始めるは地域によって異なり、地震の上限規模には地域差があることを示している。
http://www.k-net.bosai.go.jp/k-net/gk/publication/1/I-3.2.4.html

まあ、危険サイドで考えて備えをしておくに越したことはないが、パニック的に大騒ぎしても、かえって危ういのではないか。
東大地震研といえば斯界の最高権威である。
その発表の伝え方は的確にすべきだ。

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