民間事故調報告書/原発事故の真相(18)
民間有識者でつくる「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」(委員長・北沢宏一前科学技術振興機構理事長)が、2月27日、東京電力福島第1原発事故の調査報告書を発表した。
調査報告書の全文は現時点では限られた人しか入手できない。
当財団は非営利で運営しておりますことから、今回の報告書は非売品として限定部数作成致しました。会見後に在庫が払底している状態です。皆さまからリクエストを頂戴しておりますところ、すぐに報告書をお手元にお届けすることができず誠に申し訳ございません。
報告書の入手方法につきまして
したがって、以下は、報道されている範囲での感想である。
しかし、すでに「政府事故調」や「国会事故調」がある。そもそも「民間事故調」とはいかなる存在であろうか?
調査を実施しているのは、一般財団法人日本再建イニシアティブという組織である。
ジャーナリストの船橋洋一氏が理事長を務める団体で、以下のような説明がなされている。
今、東日本大震災によって生じたひずみや閉塞感が、社会の至るところで見られます。この日本全体の危機に対し行うべきことは、直接的な被害の立て直しにとどまらず、根本的な原因から教訓を引き出し、新たな復興と再建の道筋をつけることだと考えています。
一般財団法人日本再建イニシアティブは、シンクタンク機能を中核としつつ、ネットワーク、メディア、クラブの諸機能を併せ持った「シンクタンク複合体」となり、既存の組織や枠組みにとらわれず、民間の独立した立場から日本の再建を構想し実現する、世界の知的インキュベーターを目指します。
財団法人日本再建イニシアティブとは
また、3つの事故調の異同については、次のように説明されている。
要するに、「中立性・独立性」は高いが、「法的権限」は弱いということであろうか。
報告書の目次や要旨等、全体像を示す資料も同財団のサイトには見あたらないようである。
以下、私の関心に沿って報道を抜粋する。
【第3章・官邸における原子力災害への対応】
官邸の現場への介入が原子力災害の拡大防止に役立ったかどうか明らかでなく、むしろ無用の混乱と事故が発展するリスクを高めた可能性も否定できない。
・・・・・・
▽「最悪シナリオ」作成の経緯
政府と東電は4号機の燃料プールが「最悪シナリオ」の引き金を引きかねないとし、プールが余震で壊れないよう補強することを緊急課題とした。「最悪シナリオ」の内容は官邸でも閲覧後は回収され、存在自体が秘密に伏された。
▽菅首相のマネジメントスタイルの影響
菅首相の個人的資質に基づくマネジメント手法が、現場に一定の影響を及ぼしていた。行動力と決断力が頼りになったと評価する関係者もいる一方、菅首相の個性が政府全体の危機対応の観点からは、混乱や摩擦の原因ともなったとの見方もある。菅首相のスタイルは、自ら重要な意思決定のプロセスおよび判断に主導的役割を果たそうとする「トップダウン」型へのこだわりと、強く自身の意見を主張する傾向が挙げられる。
【第4章・リスクコミュニケーション】
多くの国民は原発事故や放射能の不安におびえ、血眼になって情報を求めた。政府は国民の不安にこたえる確かな情報提供者としての信頼を勝ち取ることはできなかった。あいまいな説明、発表情報の混乱、SPEEDIなど情報開示の遅れが繰り返され、政府の情報発信に対する国民の不安や失望感が深まった。放射能汚染の拡大や住民退避を懸念する海外に対しては、さらに脆弱(ぜいじゃく)な情報発信しか行われなかった。
私がこのブログで疑問を表明してきたことのある部分に対する回答である。
たとえば、
⇒2011年3月14日 (月):現認する情報と俯瞰する情報
において、最高指揮官には俯瞰する情報こそ必要だとしたが、以下のように細部まで自分が関与することにこだわったことが明らかにされている。
事故現場でバッテリーが必要と判明した際、菅氏が自分で携帯電話を通じて担当者と話し、必要なバッテリーは「縦横何メートル?」などと質問し、やりとりを続けた。その現場にいた関係者は「首相がそんな細かいことを聞くのは、国としてどうなのかとゾッとした」と証言したという。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120228-00000004-jct-soci
「自ら重要な意思決定のプロセスおよび判断に主導的役割を果たそうと」した結果、最も重要な初動において適切な判断を誤ったのではないか。
⇒2011年3月30日 (水):原発事故に対する初動対応について
また、リスクコミュニケーションの問題については大きな問題があったように読める。
⇒2011年3月15日 (火):地震情報と「伝える力」
⇒2011年3月24日 (木):安全基準の信憑性について
⇒2011年3月29日 (火):不確かな情報の開示の仕方
特に、SPEEDIの活用については、せっかく開発したものを「何で?」と思う。
⇒2011年7月 5日 (火):官邸は誰の責任で情報を隠蔽したか?/原発事故の真相(4)
⇒2011年9月11日 (日):政府による「情報の隠蔽」は犯罪ではないのか
いずれ政府事故調、国会事故調、民間事故調の報告書を比較検討できるようになれば、問題点がより一層クリヤになるだろう。
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コメント
菅首相のスタイルは、自ら重要な意思決定のプロセスおよび判断に主導的役割を果たそうとする「トップダウン」型へのこだわり ー ー、
私の印象では、外国人からの献金を受けていたことも発覚し、その首相生命が崖っぷちに立っていた、という状況下で、そういう非国民的側面を覆い隠す隠れ蓑として、原発事故の対応処理に、無理矢理に介入していった、という感じがあります。
総理の椅子にしがみついていた姿は、多くの国民の記憶にもしつこく残っていると思います。
将来への教訓とするべき根本原因の一つに、時の首相の取った態度が指摘されているとは、本当に残念なことです。
投稿: 五節句 | 2012年3月 1日 (木) 14時22分
五節句様
コメントありがとうございます。
> 将来への教訓とするべき根本原因の一つに、時の首相の取った態度が指摘されているとは、本当に残念なことです。
まったくその通りですね。
歴史的な大震災の時に、彼が首相の座にあったことは、予期せぬ不幸というべきでしょう。
国民の多数は、政権交代は望んだけれど、彼が首相になるのを選んだのは、民主党代表選の有権者というごく一部の国民です。蓮舫氏等は、「短期間で首相が替わるのは問題だ」として菅続投を訴えていましたが、やはり「ダメなものはダメ」でしょう。
こうなると、橋下氏の掲げようとしている「首相公選制」も一案かと思いますが、大衆迎合的な政治が加速される危惧もあるでしょうね。
しかし、なるべく大勢の民意が反映されるべきです。
投稿: 夢幻亭 | 2012年3月 2日 (金) 08時16分