「あなたもGKB47宣言!」のから騒ぎ
6日の参院予算委員会で、内閣府が3月の自殺対策強化月間のキャッチフレーズに決めた「あなたもGKB47宣言!」が不謹慎と批判されている問題が取り上げられた。
GKBは、「ゲートキーパーベーシック」の頭文字をつなげたもの。
自殺対策では、悩んでいる人に気づいて声をかけ、必要な支援につなげる存在を「ゲートキーパー」と呼んでいる(らしい)。
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)のサイトには、「ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のことです。」として、「あなたも“ゲートキーパー”になりませんか。」という呼びかけの文章がある。
具体的にはどういうことだろう?
悩んでいる人を見かけたら、まず、「何かお悩みですか?」と声をかける。
同サイトにあるプロ-モーションビデオを見る限り、そんな感じである。
そして、「私は、ゲートキーパーです」と言うのかどうか。
たとえば、江藤淳は、「脳梗塞に遭いし以来の江藤淳は形骸に過ぎず」として、自ら命を絶った。
⇒2010年9月 6日 (月):江藤淳の『遺書』再読
江藤淳に誰が、どういう声をかけるのだろうか?
あるいは、『新・雪国』の主人公は、経営していた会社を倒産させてしまったが、彼に対して声かけして、果たしてどれほどの効果があるだろうか?
中小企業の経営者の「悩み」の大部分が、資金繰りである。
おそらく、ひところ流行った言葉を借りれば、「同情するなら金をくれ」という答えが返ってくるに違いない。
ホリエモンのように、「金で買えないものはない」とは断じて思わないが、中年過ぎの男の悩みのほとんどが「金」の問題ではなかろうか。
経営者のみならず、一家や組織の大黒柱と呼ばれる存在になれば、「はたを楽にさせたい」と考えて働く人は多いと思う。
しかし、なかなか思うように行かないから「悩んで」いるのである。
大のオトナが真剣に考え抜いても答えが見いだせない。
自殺まで思い詰めている人に対するアプローチは難しい。
素人が安易に声をかけるのは危険でさえあるだろう。
内閣府の役人は、人間心理というものが分かっていないのではないか。
おそらく、ゲートキーパーにベーシックを付けることにより「GKB」という略号を着想したとき、担当者は、「これだ!」と内心で自分を褒めるような気分だったのではないか。
さらに、都道府県数の47をつけて、「GKB47」はどうだろうかと考えれば、「あなたもGKB47宣言!」のキャッチフレーズまでは一瀉千里である。
私は、このキャッチフーズを、まじめに自殺を防ごうとしている人の発想とは思えない。
一種の地口を思いついたということに過ぎないのではないか。
⇒2012年2月 4日 (土):三島宿地口行灯展
もちろん、地口的手法のキャッチフレーズは少なくない。
効果を上げるか否かは、テーマと採用した元のフレーズが適合的であるかによる。
意外性があって、適合しているというのはかなり難しい技である。
「AKB48」と自殺予防とは適合的であるとは言いがたい。
しかし、人の受け止め方はさまざまである。
自殺対策を所管する岡田克也副総理は「ポスターも張られ、動き出している。さまざまな意見があっても直ちに撤回しない」と頑として撤回を拒否。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120206/plc12020623420014-n1.htm
「原理主義者と呼ばれています」と得意げに自分を語っていたが、むしろ「頑迷」と言うべきではないか。
原理原則は私も重視したいが、改めるべきところは柔軟に対応すべきだろう。
後でシブシブという感じで、「皆さんがそう思うなら・・・」と撤回したが。
もっとも、この人の言語感覚、キャッチフレーズに対するセンスはもともと問題がある。
郵政民営化が争点だった2005年の総選挙で、民主党代表であった岡田氏は、それまでの民主党キャッチフレーズ「もっと大事なことがある」を「日本をあきらめない」に変えた。
政権を奪取すべき選挙で、いかにも日本が絶望的なような印象を与え、結果として民主党を惨敗に導いた。
結果的に、「あなたもGKB47宣言!」は撤回され、代わりに新フレーズとして、「あなたもゲートキーパー宣言!」ということになった。
「ゲートキーパー」という言葉は、それほど普遍的か? あるいは普及させるべきか?
Wikipediaでは次のように解説されている。
ゲートキーパー(Gatekeeper)とは門番のことである。転じて交通や通信を監視 / 管理する人及び装置のことを指す。また転じて、軍の駐屯地等や企業の工場などで来客向けに門から入って直ぐのところに展示されている品々のこともこう呼ぶ。
その他の固有名詞としての使われ方は、以下の通り。
まあ、門番という意味なら、私も理解できる。
その他の意味も、基本的には門番から転じたものといえよう。
内閣府の担当者は「全員参加というテーマにあわせ、広く国民に親身に訴えることができるということで決まった」と説明しているが、別に、税金を使ってまでも啓蒙すべき言葉とも思えない。
今回の騒動の結果について、関係者はどこまで理解しているのか。
自殺対策を担当する内閣府などには、「批判もあったが、マスコミに多く取り上げられ、ゲートキーパーという言葉の啓発などに結果的に役立った側面もある」といった声もある。
http://www.j-cast.com/2012/02/07121424.html?p=all
どうやら、根は深いようだ。
もっとも、次のような意見もあることも事実である。
今回のポスターも、多くの国民に自殺念慮者が身近にいることを、普段から意識してもらい、国民全体で自殺念慮者の発するサインに気づき自殺を食い止めたいという思いを込めているのだと思います。
GKB47のポスターを見ましたか
「自殺を食い止めたいという思い」は共有するが、こんなキャンペーンしかやることはないのか?
自殺者数は、14年連続3万人を超えている。
何でも政府の責任ということではないが、政府の自殺対策が効果を上げていないことを示しているだろう。
こんなキャンペーンをして対策を講じている気になっているとしたら、いつまで経っても自殺者数は減らない。
そして、自殺者数が多い国が、いい国だとは思えない。
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