佐高信『電力と国家』⑥敗戦と電力再編/花づな列島復興のためのメモ(21)
日本一の資本金を持つ国策会社として、日本発送電は昭和14年4月にスタートした。
⇒2012年1月12日 (木):佐高信『電力と国家』⑤「浮かれ革新」と電力統制/花づな列島復興のためのメモ(20)
昭和14年は雨が少なかったので、水力発電の能力が不足し、送電休止、停電が相次ぎ、阪神工業地帯の工場は休業を余儀なくされた。
所詮計画が甘かったのである。
昭和16年8月、配電統制令が公布され、配電事業の全国9社への統合、配電会社の国家管理が強行された。
これに反対する者は「非国民」と指弾された。
このような情勢の中で、「耳庵」の号を持つ茶人でもある松永安左エ門は、隠棲して暮らした。
敗戦後、強大な力を持っていたGHQが設置した「電気事業再編成審議会」の会長として、電力の鬼・松永は復活した。
松永の個人事務所は銀座にあり、ここが鬼の棲み家になったと、佐高は言っている。
GHQは戦後改革として、日本の軍国主義が復活しないために、産業の集中支配を廃し、分散化を図った。
電力事業も再編成されることになった。
電力に詳しい専門家チームが本国から招かれた。
「電気事業再編成審議会」は、この米国チーム案に対抗して日本の実情に沿った案を作るために設置されたものだった。
松永が隠棲していた間温めていた案は、日発を解体して、全国を9分割した民間の発送電併業体制を作ることだった。
GHQは、産業の独占の解体を旨としており、発送電分離併業の松永案は受け入れられなかった。
審議会は紛糾した。
松永は、政府の介入も気に入らなかった。
松永の態度は他の委員にも独善的なように見え、反発を買った。
松永の目指したのは改革ではなく、革命だった。革命は反対側から見れば反革命である。
財界も、日鉄(現新日鉄)の三鬼社長を中心に松永案に反対で、日発をダウンサイズして国営会社を残そうとした。
マスコミも日本経済新聞以外はほとんど反対意見だった。
政党もこぞって反対だった。
この論争の中で決定的に抜け落ちていたものが、国家としての戦争責任論である、と佐高は書いている。
電力国管が戦争と結びついたものであったことを考えれば、たとえば社会党が、戦争放棄を憲法で謳ったのだから、電力事業を国営化しても軍事利用の心配はない、と言っていた。
時代的制約を配慮するとしても、現時点で見れば脳天気なものだったといえよう。
四面楚歌ともいえる状況の中で、明快に民営化に賛成の立場を取ったのが、品川煉瓦社長の青木均一と京阪神急行社長の太田垣士郎だった。
2人は国会公聴会で、民営化賛成論を述べ、これを聞いていた松永の印象に残った。
後に、青木は東京電力の、太田垣は関西電力の社長になる。
松永を補佐した人間の1人が木川田一隆だった。
木川田は東京電燈に入社したての頃に、松永の率いる東邦電力傘下の東京電力と激しく争ったことがある。
⇒2012年1月 5日 (木):佐高信『電力と国家』②松永安左エ門/花づな列島復興のためのメモ(17)
GHQも最終的には松永案に同意し、昭和25年10月22日、ポツダム政令により松永の電力債編成が政府に指示された。
ポツダム政令は、占領軍司令官の大権であり、国会の審議が要らない。
国家総動員法で生まれた日発が、ポツダム政令で終焉した。
松永のリベンジである。
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コメント
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投稿: JohnsMYRNA31 | 2012年1月28日 (土) 07時11分