佐高信『電力と国家』④革新官僚と電力国策/花づな列島復興のためのメモ(19)
昭和恐慌から始まった深刻な不況、失業者の増大、政財界の腐敗といった現象に、官僚たちは自由主義経済の限界を感じていた。
国家を統制するためには、自由を規制することが必要だ。
こうした風潮の中で、電力国営化を推し進めたのは近衛文麿内閣であった。
商工省の岸信介、椎名悦三郎、大蔵省の迫水久常などである。
実務的には、逓信省の奥村喜和男、大和田悌二らの革新官僚と呼ばれるメンバーである。
昭和11年に発行された奥村喜和男(内閣調査官)の著した『電力国策の全貌』は国民生活、産業発展、国防の3つの視点で考えると、電力は国家管理の方がよし、と主張するものであった。
電力国営案の構成要素は次の通りである。
思想
国家は管理へ、資本家は所有へ
目的
低廉なる電力を豊富に
主義
発送電経営を公益的に
そして、電力国営の利点として次を挙げている。
1.国家の意思通りに発送電事業を管理し得ること
2.発送電設備の全国統一聯系を構成し得ること
3.民間資金の豊富且つ自由なる調達を図り得ること
4.発送電に関して他の利水、土地利用その他との利害関係を調整し得ること
奥村案は、ナチスドイツの動力経済法にならうものだった。
その要諦は、「資本公有の長所と商業的経営方法の長所とを併有させる」ことにあった。
奥村案は調査局長官吉田茂から、高橋是清蔵相の伝えられ、高橋も乗り気だったが、2・26事件(昭和11年)によって、奥村と高橋が会う機会は失われることになった。
佐高は、「奥村の案を具体的に知れば、高橋は強く反対しただろう」と推測する。
高橋が軍部と距離を置こうとしていたが、奥村案は、軍部を膨張させ、国家財政を破綻させるものであったからだ。
高橋亡き後、奥村は昭和11年12月に「電力国策要旨」を書き上げ、陸軍の鈴木貞一大佐に届けた。
日本国内の発送電設備をすべて特殊株式会社の所有にし、運営は政府が行うとするものであった。
鈴木大佐は、奥村案を高く評価した。
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