山下文男さんと「津波てんでんこ」/追悼(18)
山下文男さんの訃報が伝えられている。
津波の恐れがあったら1人ずつが必死に逃げることを諭す「津波てんでんこ」の言葉を全国に広げた大船渡市三陸町綾里の津波災害史研究者、山下文男さんが13日午前0時34分、肺炎のため盛岡市内の病院で亡くなった。87歳だった。過去の被災体験から著書や講演で津波の怖さや防災対策を訴えた。3月11日は陸前高田市内で津波に首まで漬かりながら生還。亡くなる直前まで高所移転や防災教育の必要性を訴え続けた。
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20111214_3
「津波てんでんこ」という言葉は聞いたことがあったが、まさに「3・11」の大津波によって、生きた言葉として実感した。
山下文男さんの著書を直接手にしたことはないが、佐野眞一『津波と原発』講談社(1106)に、印象深く登場している。
佐野さんのこの本は、震災後間もない時期に(「あとがきにかえて」の日付は6月1日)上梓されたものであるが、今次震災の本質のある側面を見事に射貫いていると思う。ノンフィクション作家としての取材の蓄積と問題意識があればこそであろう。
⇒2011年9月11日 (日):政府による「情報の隠蔽」は犯罪ではないのか
佐野さんは、同書の最初の部分で、山下さんについて以下のように書いている。
同行したスタッフ記者と担当編集者との会話である。
山下文男って知っているかい? 一九七四年の創共協定を実現させたときの日本共産党の文化部長だよ。創共協定は、あの松本清張が橋渡し役になって、宮本顕治日本共産党委員長と創価学会会長の池田大作のトップ会談を実現させたものだ。その歴史的創共協定が結ばれたとき、日共側の連絡役となったのが山下文男という男だ。
なぜ、そんな古い話をしたかというと、山下文男が今回の大津波に大いに関係しているからなんだ。
山下さんは、自らの体験を踏まえて近代日本の津波史を研究、『津波てんでんこ-近代日本の津波史』(新日本出版社)など多数の著作を通じて津波の恐ろしさを訴え続けた。津波の記憶を風化させまいと、学校などで体験を語る活動にも取り組んだ。(Wikipedia山下文男)
山下さんは、岩手県陸前高田市の病院中に、東日本大震災の大津波に遭った。
病院の4Fに入院していて津波に襲われたが、津波災害を研究してきた者として、最後まで津波を見届けようとした。
しかし、津波は山下さんの想定を超えるものだった。
津波研究者として第一の反省点だ、と佐野さんのインタビューに答えている。
興味深いのは、自衛隊に対するコメントである。
僕はこれまでずっと自衛隊は憲法違反だと言い続けてきたが、今度ほど自衛隊を有り難いと思ったことはなかった。国として、国土防衛隊のような組織が必要だということがしみじみわかった。
とにかく、僕の孫のような若い隊員が、僕の冷え切った身体をこの毛布で包んでくれたんだ。その上、身体までさすってくれた。
原発については次のように語っている。
僕は原発を全面的には否定しないんですよ。だって、将来の日本のエネルギー問題を考えれば、何が何でもいけないと言うわけにはいかない。それは防潮堤をもっと高くしろという短絡的な意見と同じでね。こういう事故が起きると、ほら見たことか、やはり原発はダメじゃないかという意見が必ず出てくるが、それもダメですよ。
山下さんは、自衛隊にしろ原発にしろ、現実に即して柔軟な思考をした人のようだ。
エネルギー源として、原発は不要だろうか?
不要だとしたら、日本国全体でどの位のエネルギーを使用し、その時の個人の生活や産業はどのようにイメージできるだろうか?
また、必要だとしたら、どの程度を想定するのか?
いずれにせよ、原発ありきで生きていくことはできない。
「あとがきにかえて」で、佐野さんは次のように書いている。
いま私たちに問われているのは、これまで日本人がたどってきた道とはまったく別の歴史を、私たち自身の手で作れるかどうかである。そして、それしか日本復活につながる道はない。
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