危機の構造と「レジリエンス」/花づな列島復興のためのメモ(14)
今年話題となった新語・流行語を選ぶ『2011年ユーキャン新語・流行語大賞』(現代用語の基礎知識選)が12月1日発表された。
年間大賞は「なでしこジャパン」。
女子サッカーのW杯優勝という歴史的な快挙からして、異論はない。
震災や原発事故関連の言葉が多くノミネートされていたが、「帰宅難民」「3・11」「風評被害」「絆」などがトップテンに入った。
いずれも今年の世相を表したものだ。
私は大震災という未曾有の事態にを今後に生かす言葉として、「レジリエンス」はどうだろうかと思う。
流行したというほど、人口に膾炙したとはいえないだろう。
私は知らない言葉かったが、必ずしも新語ではないだろう。
しかし、藤井聡・京都大学大学院教授が大震災発災直後、3月23日に、参議院予算委員会の公聴会で公述するまでは、一般にはほとんどなじみのない概念ではなかったか。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/index.php/b4/job/121-sanngiin.html
藤井氏はその後、『列島強靱化論―日本復活5カ年計画 (文春新書)』(1105)を発刊して注意を喚起している。
また、同趣旨のことを、産経新聞111121の「正論」欄に寄稿している。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/111121/dst11112103320002-n1.htm
私もすでに引用させて貰っている。
⇒2011年10月29日 (土):猿橋の「用」と「美」と「レジリエンス」/花づな列島復興のためのメモ(10)
今年は大震災だけではなく、いくつもの危機が顕在化した年だったと言えよう。
⇒2011年10月18日 (火):日本経済のクァドリレンマ/花づな列島復興のためのメモ(8)
⇒2011年11月29日 (火):「危機の構造」はどう変わったか?/花づな列島復興のためのメモ(12)
以下、「正論」欄の主張をベースに、改めて藤井氏の見解を紹介したい。
藤井氏は現在の日本の状況を、次のように述べている。
第一に、「首都直下地震」「西日本大震災」という、東日本大震災級の超巨大震災の「連発」に見舞われる危機である。
・・・・・・
第二に、15年余にもわたる「デフレ不況」が日本の国力を蝕み続けている。例えば、過去15年の間に日本が僅かなインフレを続けていたと仮定するだけで、恐るべきことに、累計で「数千兆円規模」の国民所得が既に失われた計算になる。
・・・・・・
第三に、世界経済に目を転じれば、米、欧、中のいずれも深刻な経済問題を抱えており、リーマン・ショックと同様あるいはそれ以上の世界経済危機がいつ何時、起きてもおかしくない状況にある。
・・・・・・
これらの危機は、どの一つを取ってみても、国家の存亡に直結するような、目眩がするぐらい深刻なものばかりであるが、それら全てが束になって襲いかかろうとしているというのが、今の我が国の危機的状況なのだ。
そして、このような状況下でなすべきことは、まずはその病を癒やして基礎体力を回復することであって、デフレから脱却して健全な国民経済を取り戻すとともに、災害面、経済面の具体的な危機に対する備えを固めることだ、と言っている。
そのような本の総力を挙げた取り組みを「国家の強靱化」といい、「強靱さ」を「レジリエンス」と表現している。
「レジリエンス」は、「強固・堅牢」とは異なる概念である。
仙谷官房長官(当時)が「弱腰外交」と批判されて、「柳腰外交だ」と反論したことがあった。
「柳腰」は、「美人の細くしなやかな腰つきという意味で不適当」と撤回を求められたが、古川官房副長官(当時)は「仙谷長官は『しなやかで、したたか』という意味で使った」と説明した。
その雪折れしない柳のような強さに近いと言っていいだろう。
すなわち、強力な外力に対した時の次のような強さである。
(1)致命傷を避ける
(2)被害を最小化する
(3)迅速に回復する
しなやかでしたたかな強さ。
今、わが国が最も必要とされるものではないだろうか。
私たちは、効率性を追求して、戦後日本の繁栄を築いてきた。
それが砂上の楼閣でもあることに、大震災によって気づかされた。
効率性とは別の指導原理が必要である。
「レジリエンス」は今後の指導原理の1つになり得るものであろう。
しかし、当然のことながら、効率性とはトレードオフになるだろう。
たとえばTPPの問題はどうか?
私は、基本的には、わが国が通商国家である以上、賛成である。
しかし、「レジリエンス」の視点を踏まえた十分な検討が必要だとも考える。
野田首相はあまりにも説明不足だと言わざるを得ない。
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