天皇制と女性宮家問題/やまとの謎(50)
宮内庁の羽毛田信吾長官が、女性皇族による宮家の創設を「火急の案件」として野田首相に検討するよう要請していたという。
「火急の案件」という宮内庁長官の発言の意味はどういうことであろうか?
まず、女性宮家とは何か?
宮家というのは、天皇・皇太子一家を除いた皇室の一家である。
現在の皇室には、秋篠宮家(皇太子弟)、常陸宮家(天皇弟)、三笠宮家(昭和天皇の末弟)、寛仁親王家(三笠宮長男)、桂宮家(三笠宮次男)、高円宮家(三笠宮三男)の6宮家がある。
現行の皇室典範では、女性皇族が一般の人と結婚した場合は、皇族の身分を離れるとしている。
皇室の構成は次図のとおりである。
各宮家で2人以上男子の出生をみないと、宮家の数が減少するのは論理的帰結である。
特に、現在の皇族は一般人に比べ女性の割合が多いので、このまま推移していくと、皇族の数がどんどん少なくなることが容易に予想される。
現在、30歳以下の皇族は9人いるが、悠仁親王以外の8人が未婚の女性であり、そのうちの6人が成人である。
結婚に適齢があるかどうかは別として、女性皇族が結婚を機に皇籍を相次いで離脱すると、皇族の数が減少する。
悠仁親王の代には少数の皇族しかいない、という事態は十分に予想できることである。
しかし、それを「火急の案件」と言うであろうか?
第一の心配点は、皇位継承候補者の断絶であろう。
皇室典範では、「皇位は皇統に属する男系の男子が継承する」と定めている。
皇位継承の有資格者は、次世代は皇太子と秋篠宮、さらに次の世代は秋篠宮家の悠仁親王ということになる。
確かに、皇位継承の候補者は限られており、将来的に不安が生じる可能性はある。
もちろん世代間の問題は、前の世代のうちに解決しておかなければならないだろうが、決して「火急の案件」ではない。
第二は、公務負担の軽減ということであろう。
天皇陛下が入院されて、国民の多くが、天皇の「仕事」が多すぎるのではないか、と思ったのではないだろうか。
しかし、先ずは、公務そのものの見直し(仕分け!)をすべきではないだろうか。
分担論は、全体が決まってからであろう。
藤村官房長官は「国民各層の議論を十分に踏まえ、今後検討していく」との考えを示した。
しかし、何を、どう議論するのであろうか。
第二の問題は女性宮家の創設で改善されよう。
しかし、その前に、皇室の果たすべき役割について、コンセンサスが得られていることが必要ではなかろうか。
それは、天皇という制度をどう考えるかに行き着かざるを得ない。
つまり、第一の問題と切り離せないと思われる。
昔は一夫多妻制だった。それは多分に血統維持の目的があっただろう。
にもかかわらず、NHKの大河ドラマでご存じの徳川秀忠の直系子孫は6代で絶えた。
徳川家は「御三家」という制度によって、存続を図ったのである。
皇室典範の「皇位は皇統に属する男系の男子が継承する」という規定をどう解するか?
論点は以下のように整理できよう。
1.皇統に限定するか?
-世襲以外の天皇を想定するかということである。
-いわゆる革命であるが、そういう事態において、天皇制が存続するとは思えない。
-また、天皇の特質として、「無私」ということがいわれるが、選挙で選ぶとなれば「無私」などあり得ないと思う。
2.男系に限定するか?
-男系というのは父方のことである。
-たとえば、Y染色体の継承などという人もいるが、正気とは思えない。
⇒2011年1月10日 (月):皇統論における「Yの論理」への疑問
-その他に、男系に限定する正当な論拠があるだろうか?
3.男子に限定するか?
-歴史上、女性天皇は存在した。
-中継ぎ説もあるが、推古、持統、斉明など、剛腕のイメージである。
東日本大震災という未曽有の事態に、「国民統合の象徴」としての天皇の意義が再認識されたともいえる。
⇒2011年4月 1日 (金):「天皇」という制度/やまとの謎(29)
しかし、皇位の正統性を何に求めるべきだろうか。
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