三保松原で薪能を観る
薪能というものの存在を知ったのは、立原正秋の小説『薪能』によってであった。
滅びゆくものの美しさを描いたこの小説は、まさに立原好みを尽くした設定の作品といえよう。
古都鎌倉、能、美しい人妻と4歳違いの能面打ち従弟との許されぬ愛、能楽堂での心中。
初期の代表作である。
実際に薪能を観たのは、ずっと後年になってからであった。
何時、どんな作品だったかは覚えていないが、何かのイベントの特設舞台で行われたものであった。
友人がチケットを手配してくれたので、三保の松原で、羽衣まつりのメインイベントである『三保羽衣薪能』を観た。
今年で28回というから地域にすっかり定着しているイベントである。
演目は『能・経政』『狂言・萩大名』『能・羽衣』という構成である。
特設舞台はいわゆる「羽衣の松」の近くに設えられている。
http://youtu.be/QKvzEL6hS2M
今年はダメージを受けた松原もあったが、三保はさしたる被害はなかったようだ。
⇒2011年10月 1日 (土):松原景観受難の年/花づな列島復興のためのメモ(7)
羽衣伝説は全国各地にあるようだが、中でも三保は代表といえよう。
特設舞台の奥には海が広がって見える。
http://www.at-s.com/event/detail/109446.html
夕闇が迫る頃、「火入れの儀」が行われ、篝火が点火される。
演目が進むにつれ、闇が濃さを増し、舞台が浮かび上がる。逆に、舞台奥の海の景色が次第に消えていく。
私の最も好きな時間帯-色彩が消えてモノクロに変わっていく-である。
確かに絶好のロケーションというべきであろう。
最近数多い薪能の中でも屈指の立地ではなかろうか。
この場所で、『羽衣』である。
まさに臨場感は十分すぎるくらいである。
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