『沈黙の春』と予防の論理/花づな列島復興のためのメモ(8)/因果関係論(10)
治療より予防。
これは、何も疾病に限ったことではない。
災害も、復旧・復興よりも、予防できるものは予防に力を注ぐべきだ。
福島第一原発の事故は、改めて環境破壊が人間の存在基盤そのものを危うくするものであることを思い知らせた。
私は、レーチェル・カーソンの『沈黙の春 (新潮文庫) 』の問いかけが、この日本で、放射能汚染という形で顕在化していることに戦慄する。
なぜ、フクシマで予防の論理が有効に働かなかったのだろうか?
同書(原著の『Silent Spring』)が出版されたのは1962年だから50年-半世紀前のことである。
この書が世界に与えた影響は以下のことからも理解される。
1.ロバート・B・ダウンズ『世界を変えた本』(1978)に選ばれた
27冊のうちの1冊。他は、1プラトン、ニュートン、ダーウィン、マルクスなど。
2.「TIME」誌の『20世紀にもっとも影響力のあった100人』に選ばれた。
科学者・思想家24人のうち。女性は、レーチェル・カーソンだけ。他は、アインシュタイン、フロイト、ヴィトゲンシュタインなど。
この50年の間に、20世紀を先導した経済成長優先の思潮は、持続可能なライフスタイルの追求へと大きく変化した。
「環境と福祉」の時代への転換をいち早く主張したのが『Silent Spring』である。
私たちは、ヒロシマ、ナガサキに加え、ミナマタを体験している。
「ノーモア、ヒロシマ」「ノーモア、ミナマタ」
そして、フクシマが加わった。
フクシマとミナマタは同根ではないか。
そんな問題意識を持つ人たちがいる。
福島第一原発事故と水俣病の問題を映画とパネルディスカッションで考える「国策を問う!フクシマ・ミナマタ」が十月一日、船橋市本町一のきららホールで開かれる。企画した市民団体は「半世紀前に公害病として公式認定された水俣病と原発事故は同根ということを訴えたい」としている。
・・・・・・
今回の企画「国策を問う」について、IKI-IKI編集長の相川晴彦さん(79)は「役員の間でも、原発と水俣病という重たいテーマを二本立てにすることに異論が出たが、根源は同じだということを伝えたい」と言う。
水俣病は、原因企業に対する国などの抜本規制が遅れたことが、被害の拡大を招いたとされる。「高度経済成長のために公害を容認した、という点では原発推進と同様に国策。電力の安定供給のために(停止している原発の)再稼働もやむを得ない、という論理に重なってくる」。同会議の事務局長・藤本芳樹さん(63)はこう指摘する。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/20110918/CK2011091802000044.html
水俣病は、当初「奇病」とされて、救済が遅れた。
特に、旧通産省や旧厚生省の責任は大きいのではないか。
発症のメカニズムはともかく、発症と工場廃液との間に相当因果関係があることは明らかだったように思う。
チッソに対して、「疑わしきは罰せず」という法理が適用されるはずがない。
作家の感性は、同様の事態が、新潟で起きる可能性すら予測していたのである。
⇒2009年7月 7日 (火):水俣病と水上勉『海の牙』
『沈黙の春』は次のような内容の本である。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E6%B2%88%E9%BB%99%E3%81%AE%E6%98%A5
殺虫剤や除草剤といった化学物質の危険性をはじめて大々的に警告したベストセラー。
現代、科学技術の発達によって人類はさまざまな便利な農薬をたくさん生みだした。
そして、その農薬を何の気なしに害虫の防除や邪魔な雑草の除草に大量に散布した。
その農薬により、まったく関係がない花や魚や鳥、そして人間、ついには環境全体までもが跡形もなく破壊しつくされてしまうとも知らずに。
鳥のさえずりも聞こえず、色鮮やかな花もなく、空、川、野原から生気がすべて抜け落ちてしまったような「沈黙の春」はほかでもない人間自身の手によって起こるものなのである。
DDTや2・4-Dといった化学物質が環境に及ぼす影響について、人々に啓蒙したはじめての書籍であり、化学、農学や環境科学に取り組む者にはもちろん、現代に生きる人ならば読んで損はない一冊である。
私も子供の頃、すなわち敗戦期に、頭からDDTの白い粉を掛けられた記憶がある。
DDTとは以下のような物質である。
DDTという名称は、ジクロロジフェニルトリクロロエタンの頭文字を取ったものです(ただし現在の命名ルールでは、1,1,1-トリクロロ-2,2-ビス(4-クロロフェニル)エタンという名称になります)。DDTが最初に合成されたのは1874年のことですが、スイスのミュラーによってその強力な殺虫効果が発見されたのは1939年になってからのことでした。下に示す通り5つの塩素原子(黄緑)を含んでいます。
DDTはきわめて安価に合成でき、多くの昆虫に対してごく少量で殺虫作用を示します。それでいて人間など高等生物にはまったく無害(と思われた)なのですから、これはまさに夢のような薬剤でした。このため特に第二次世界大戦後の占領地で、蚊やシラミを駆除するために大量に用いられました(これらの虫は黄熱病、チフス、マラリアなどの病原体をばらまきます)。戦後の日本で、DDTの粉末を頭から浴びる子供の写真をご覧になったことのある方も多いことでしょう。これによって戦後につきものの伝染病の蔓延はすっかり影を潜めることとなりました。DDTの生産量は30年間に300万tに達し、発見者ミュラーは1948年のノーベル医学生理学賞に輝いたのです。
http://www.org-chem.org/yuuki/DDT/DDT.html
このDDTやPCB(カネミ油症の原因物質)が、安定性の故に生態系の中で濃縮される。
いわゆる食物連鎖である。
生物が、外界から取り込んだ物質を、環境中あるいは他の生物中の濃度よりも高い濃度で体内に蓄積することを生物濃縮という。特に生物にとって生活にそれほど必要でない元素・物質の濃縮は、生態学的に異常な状態であり、環境問題の一つといえる。
通常、生物体内に取り込まれた物質の多くは、代謝などによって再び体外に排出される。しかし、水に溶けにくい、脂質と結びつきやすいなどの性質を持つ一部の物質は、生物体内に蓄積しやすく、生物同士の食物連鎖によって生物濃縮が進行する。例えば、水域の生態系では、水中に残留している有害物質(PCB※1、DDT※2など)が、植物プランクトンや藻類から、小型の二枚貝や魚類へと、濃縮率を高めながら濃縮されている事例が報告されている。
生物濃縮では、食物連鎖の上位に位置する「高次消費者」ほど、高濃度(自然状態の数千倍から数千万倍)の濃縮が起こり、その生物の許容限度を超えた摂取量となって健康被害が発生する可能性が高くなる。実際に、生物濃縮により人間の健康被害が生じた事例としては、有機水銀中毒による水俣病などが知られている。
http://tenbou.nies.go.jp/learning/note/theme2_3.html
このような濃縮が起こることは当初は広くは知られていなかった。
しかし、生態系(より広くは環境)の異変を注意深く観察していれば、より深刻な被害が発生する前に対策をうてる場合が多い。
新潟水俣病は防げた可能性が高いのではないか。
ハインリッヒの法則を参照しても、微細な変化・変異に気付くことが重要である。
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