減災と想定-民主党の危機意識は大丈夫か
9月1日を「防災の日」とした最大の理由は、「関東大震災」の発生がこの日だったことによる。
また、立春を起算日(第1日目)として210日目にあたり、台風が来て天気が荒れやすい日と言われている。夏目漱石の『二百十日』が有名であるが、今年も台風12号が接近してきている。
由来はともかく、東日本大震災の今年は、とりわけ大きな意味を持つはずだろう。
初動の重要性は、民主党もよく分かったのではないかと思う。
ところが、国会で首相の指名をうけた野田佳彦氏は、組閣を9月2日にするらしい。すなわち、今日は「空白の1日」になりかねない。
時間がないといって、代表選を慌ただしく済ませた割には悠長なものだ。
法的には、憲法の定めにより、菅内閣がそれまで職務を遂行することになる。
つまり、辞表を提出済みの人たちである。
民主党の政権担当能力の欠如は、このような緊張感の乏しさに端的に表れていると言えよう。
「天災は忘れた頃にやってくる」というのは、寺田寅彦の言葉といわれる。
福島原発の事故原因を究明する第三者機関「事故調査・検証委員会」の委員長に指名された畑村洋太郎氏は、「失敗学」を提唱し、実践してきたことで知られる。
近著の『の『未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ (講談社現代新書) 』(1107)に、「「人は忘れる」という大原則がある」という項目がある。
人は非常に忘れっぽい生物であるが、忘れなければ前に進めないので、忘れることは悪いことではないが、失敗や災害の対策を考えるときにはマイナスに働く、として「人間の忘れっぽさの法則」を下図のように表わす。
関東大震災が起きたのは、大正12(1923)年9月1日11時58分44秒。
震源は、伊豆大島付近、相模湾北西部の相模トラフ。海溝型大地震で、マグニチュード7.9、震度6の規模だった。
今年は88年目であり、上図でいえば、「地域が忘れる」時期である。
昭和三陸地震は、昭和8(1933)年3月3日で、78年前。
地域は忘れていたのか?
必ずしもそうではないようである。
田老地区などをみれば、防潮(波)堤等の「備え」はあったが、今回の津波は「想定」よりもはるかに大きなものだった。
昭和8(1933)年の昭和三陸地震でも、三陸海岸は津波の大被害を受けました。特に被害が激しかったのは岩手県田老村(現在の宮古市田老地区)で、津波によって全戸数362戸のうち358戸が流され、人口1,798人の44%にあたる792人が死亡しました。この被害をきっかけに、田老地区では町を取り囲むように、高さ10mの巨大な防潮堤
が建設されました。この防潮堤は、1960(昭和35)年のチリ地震津波から田老地区を見事に守りました。 ![]()
http://www.jice.or.jp/quiz/kaisetsu_08.html
まさに「想定外」だったのである。
しかし、「想定」とは何だろうか。
畑村氏は、上掲書で、ものごとの考えの枠を決めることだとしている。
つまり、「想定」とは「問題設定」であり、想定内のことを考えることが「問題解決」というわけである。
東日本大震災を踏まえて、「減災」という概念の重要性が指摘されている。
少しでも被害を減らそう、少なくとも致命的な被害は最小化しようということだと理解する。
自然現象としての地震や津波は無くせないけれども、「減災」は可能である。
しかし、そのためにも、如何なる「想定」をして備えるかが重要なはずである。
防災の日に、曖昧で不安定な体制のまま臨むところに、民主党の「想定」力が表れているといえよう。
鳩山・菅の失格は既に明らかである。
「二度あることは三度ある」という言葉が現実のものにならないよう願うばかりである。
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