黒塗り報告書は何を隠したのか?/原発事故の真相(8)
9月2日、衆院科学技術・イノベーション推進特別委員会に提出した東電の「事故時運転操作手順書」はほとんどが黒く墨塗りされていた。
⇒2011年9月13日 (火):フクシマは津波によりメルトダウンしたのか?/原発事故の真相(7)
当日は野田政権発足の日だった。
つまり提出したのは菅政権ということになる。
この墨塗り報告書によって、何が隠蔽されたのか?
わざわざ塗りつぶしていることによって、よけいに注目度が高くなるという逆説に気が回らないのか?
それとも、より大きな隠蔽から目を逸らさせるための仕掛けなのか?
「週刊ポスト」110930号に、『東電「黒塗り報告書」に書かれている「国家機密」』と題する記事が載っている。
タイトルだけからは、黒塗りされた部分の機密事項を明らかにしたかのように解釈できる。
私もそう理解しつつ目を通してみた。
何が書かれているか?
東電にまともな事故マニュアルが存在せず、原発の安全管理を担当する保安院は事故マニュアルを見たことがなかった――そんな原子力行政のお寒い実態こそ、国民に隠さなければならない「国家機密」だったのである。
これでは「羊頭を掲げて狗肉を売る」どころか、まったくの虚偽表示である。
まあ、週刊誌の記事はそんなものだろうが。
とはいえ、同記事にも読みどころはある。
一つは、原子炉設計者の田中三彦氏の言葉である。
田中氏は、「エコノミスト」臨時増刊110711号『福島原発事故の記録』の冒頭の『津波が来なくてもメルトダウンは起きた? 問題は耐震性だ』という記事に登場した人であることは既に触れた。
⇒2011年9月13日 (火):フクシマは津波によりメルトダウンしたのか?/原発事故の真相(7)
福島原発1号機は震災直後に緊急停止し、「非常用復水器」が自動起動した。
復水器軌道の11分後、東電の運転員が手動で復水器を停止させた、とされている。
東電は、それをマニュアル通りの操作であると説明し、その確認のための手順書の提出だった。
とすれば、墨で塗りつぶして読めないようにする必要はないはずである。
田中氏は、運転員が復水器を停止させた理由を次のように推測する。
東電の公表データでは、非常用復水器が自動起動した直後に、炉内の圧力が急激に下がっている。その理由は、地震の揺れで圧力容器から復水器に繋がる配管が破断し、炉内の水蒸気が漏れ出したからだと考えられる。そのままでは放射性物質を拡散させたり、炉内が空焚きとなったりする危険が高まる。そのため、運転員は手動で弁を閉めて復水器を停止したと推測できる
つまり政府(原子力安全・保安院)の説明―事故の原因は津波による電源喪失。地震の揺れによる原子炉への被害はなかった―は真相を隠蔽しているということである。
東電自身はどう説明しているか。
東電の松本純一・原子力・立地本部長代理は12日の会見で、大半を非開示とした理由について「手順書は社内の文書なので一般公開するものではない。知的財産、核物質防護上の面もある」と説明した。
同委員会は8月26日、過酷事故の手順書を提出するよう保安院を通じて要請。東電は9月2日に「事故時運転操作手順書」などを提出したが、「知的財産が含まれる」「安全確保・核物質防護上の問題が生じるおそれがある」として大半は黒塗りだった。
http://www.asahi.com/national/update/0912/TKY201109120347.html
説明を受けた方たちは、この説明で納得できるのだろうか。
週刊ポスト誌の記事の読みどころの二つ目は枝野経産相の言動である。
鉢呂失言大臣の後任として経産相に就いた枝野氏は、前官房長官である。
枝野氏は黒塗り報告書について次のように言っている。
私は納得できるような説明は受けておりません。公表できないというのであれば、国会関係者や国民が納得できるような説明をする責任が東京電力にはある
これはもっともな発言のように思える。
しかし、週刊ポスト誌も指摘しているように、国会に東電の黒塗り報告書を出したのは菅政権である。
枝野氏は官房長官であって、「説明を受けていない」という立場ではない。
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