汽水域の生態学/花づな列島復興のためのメモ(4)
大津波の被害を受けた三陸の海岸はリアス式と呼ばれる地形で知られる。
リアス式の語源は以下のようである。
リアス式海岸という呼称は、スペイン北西部のガリシア地方で入り江が多く見られた事に由来する。スペイン語で「入り江」を意味するリア(ría)あるいは、入り江の多い地方の名前(Costa de Rías Altas)等を元に、1886年にドイツの地理学者のフェルディナント・フォン・リヒトホーフェンが命名した。しかし、リヒトホーフェンは、海岸線と垂直な方向に伸びる溺れ谷の連続する複雑な形の海岸線をリアス式海岸と定義していた。
1919年にアメリカの地形学者のジョンソンは、より広い言葉として沈水海岸を定義し、リヒトホーフェンの定義したリアス式海岸のうち、河川の浸食によってできた開析谷が沈水して溺れ谷となっている場合をリアス式海岸、氷河の浸食によってできたU字谷が元になっている場合をフィヨルドと定義し、これが定着した。
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日本国内では三陸海岸、房総半島南部、若狭湾周辺、志摩半島、紀伊半島南部、山陰海岸、宇和海、日豊海岸、長崎県九十九島などで見られる。ただし三陸海岸は、南部が沈水海岸であり、典型的なリアス式海岸を形成しているのに対し、北部は隆起海岸である。
Wikipedia110902最終更新
リアス式海岸は風光明美であり、三陸海岸も国立公園(陸中海岸国立公園)に指定されている。
景勝地のほとんどは、石灰岩地形の白さと植物の緑、コバルトブルーの澄んだ海と青い空という組み合わせである。
また、鳴き砂と呼ばれる砂浜がある。鳴き砂は汚れると音がしなくなるといわれ、浜辺の清掃のみならず、海水が汚れないよう努力されている。
三陸海岸の沖合いは、世界三大漁場の1つとなっている。
黒潮と親潮がぶつかり合うからだと教えられた記憶があるが、リアス式海岸の「河川の浸食によってできた」ということも重要な要因である。
『日本<汽水>紀行―「森は海の恋人」の世界を尋ねて 』文藝春秋(0309)の著者・畠山重篤さんは、気仙沼湾で牡蠣の養殖業を営んでいる人である。
「海は森の恋人運動」を長年続けておられる。今回の震災で大きな被害を受けたが、復興すべく活動中である。
以下は、近況(9月2日の「地域再生人材大学サミットin能登)における講演要旨から。
海は森の恋人運動は、気仙沼の湾に注ぐ大川の上流で植林活動を20年余り続け、約5万本の広葉樹を植えた。赤潮でカキの身が赤くなったのかきっかけで運動を始めた。スタート当時、科学的な裏付けは何一つなく、魚付林(うおつきりん)があるとよい漁場になるという漁師の経験と勘にもとづく運動だった。お願いした北海道大学水産学部の松永
勝彦教授(当時)によって、植物プランクトンや海藻の生育に欠かせないフルボ酸鉄(腐葉土にある鉄イオンがフルボ酸と結合した物質)が大川を通じて湾内に注ぎ込まれていることを解明された。漁師の運動に科学的な論拠を与えてもらった。このおかげで、大川上流のダム建設計画も中止となった。植樹活動には子供たちを参加させている。かつて植樹に参加した子供たちの中には、いま生態学者を志す者もいる。森と川と海をつなげる森は海の恋人運動は、漁師の利害ではなく、未来の地球の環境を守るための「人々の心に木を植える」教育活動だと考えている。
http://blog.goo.ne.jp/f-uno/c/4775e782f10c2ec4451703cb460dbb05
津波は大きな災害をもたらしたが、また多くの日本人がその恵みを享受している。
畠山さんは、上掲書で次のように書いている。
アジアモンスーンの降雨量の多い緯度に位置し、背骨のような山脈の森から日本海側と太平洋側に血管のように川が注ぎ、沖積平野で稲穂が波打つこの国を瑞穂の国とたたえて呼ぶ。だがそれは日本列島を包んでいる汽水域を含めてのような呼び名のような気がする。
三陸のリアス式海岸の生態的特徴は以下のように描写される。
つまり、リアス式の入り江は淡水と海水の入り混じった汽水域であるから、森林の腐葉土層を通過した水の中に、海の生物生産の出発点となる、植物プランクトンを成長させる養分が含まれている。植物プランクトン、動物プランクトン、小魚という食物連鎖がつながってくるのだ。
見ればお分かりのように、畠山さんは「漁民」を自称するが、達意の文章家である。
東北日本の復興は、海と陸を一体的に捉える視点が必要なことを教えられる。
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