宮沢賢治『無声慟哭』/私撰アンソロジー(5)
人は自分の人生に深く考えようとするとき、ひとり旅に出る。
賢治は、妹の死の翌年、教え子の就職斡旋の名目で樺太を訪問し、その心象を『オホーツク挽歌』という作品として形にした。
⇒2011年8月11日 (木):宮沢賢治『オホーツク挽歌』/私撰アンソロジー(4)
「春と修羅」の挽歌群の中で、「永訣の朝」、「松の針」に続く作品に『無声慟哭』がある。
慟哭:大声をあげてなげき泣くこと(広辞苑第六版)
ならば、無声慟哭とは?
余りに悲しいと、その感情は言葉にならない。
私も偶々、賢治と同じ26歳の時、3つ下の妹を亡くした。
こんなに悲しいことがあるのだろうか、と思った。
40年経ってなお、幼い頃一緒に遊んで過ごした情景などが思い起こされる。
手を引いている感触まで甦る気がするのだ。
信仰を一つにするたつたひとりのみちづれ。
賢治は、熱心な法華経信者だった。妹もそうだったのだろう。
しかし、実家は浄土宗で、周囲からは冷たい目で見られることもあったに違いない。
そういう状況では、「信仰を一つにするたつたひとりのみちづれ」がどんなに支えになっていたか。
その妹はもういないのだ。
おまへはじぶんにさだめられたみちを
ひとりさびしく往かうとするか
妹は独りで死んで行く。
しかし、どうしてやることもできないのだ。
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