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2011年7月 4日 (月)

根岸英一博士の研究哲学/知的生産の方法(14)

日本の化学企業に就職しながら、フルブライト留学生として渡米し、大学の世界に転職してノーベル賞を受賞するに至る。
根岸英一博士は、履歴からしてかなり波乱万丈の生活を送られてきているようだ。
「現代化学」11年6月号に、『根岸英一博士の研究哲学』という記事が掲載されている。

根岸教授は、2010年のノーベル化学賞を、有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応により受賞した。
⇒2010年10月 7日 (木):日本人研究者のノーベル化学賞を祝す
先ごろは、スーパーコンピュータの演算速度で世界一を奪還したというニュースがあった。

理化学研究所は21日、神戸市中央区の同研究所計算科学研究機構にある演算速度ランキング世界1位となった次世代スーパーコンピューター(スパコン)「京(けい)」を報道陣に公開した。平尾公彦機構長は「性能を生かしたシミュレーションで、防災研究や医療分野などで成果を上げていきたい」と話した。
京は理研と富士通が約1120億円かけて開発しており、来年6月の完成予定。毎秒1京(1兆の1万倍)回の計算速度を目指しており、今年4月から一部が稼働している。
http://mainichi.jp/area/hyogo/news/20110622ddlk28040381000c.html

蓮舫大臣に、「世界一でなければならない理由は何ですか?」と仕分けられそうになったが、科学者(特にノーベル賞受賞者)の強い反発と世論の後押しで、何とか免れた。
科学技術の研究は、震災後の日本においてますます重要であろうし、世界一を目指さないことには話にならないだろう。
民主党の底の浅さの一端である。

根岸博士がアジテートされたのが、ワトソンとクリックによるDNAの二重らせんモデルだという。
1962年のノーベル賞だが、根岸博士の渡米直後のことで、まだ教科書にも載っていなかったが、夢中で勉強したらしい。
二重らせんという形・構造について、論理的に頭の中で導き出したのがすごいと感じた。

「現代化学」11年6月号には、たまたま(?)岡田吉美『DNAの二重らせん構造モデルを考えたワトソン25歳とクリック37歳』という記事が載っている。
その中に、「DNAの二重らせんモデルについては、高校の生物でも勉強していると思いますから……」という記述がある。
半世紀近くの間に、高校生でも知っているべき知識になったということである。

根岸博士のアメリカでの研究は、バデュー大学のブラウン教授の下で始められた。
当時、ブラウン教授は、ホウ素の化学をやっていた。
ホウ素は周期律表で炭素のとなりに位置するが、まったく異なる性質である。

周期律表にはたくさんの元素が並んでいるが、有機化学では、水素、炭素、窒素、酸素、ハロゲン、硫黄、リン程度の元素しか使わない。
根岸博士がブラウン教授の下で研究を始めたころ、周期律表の大部分をしめる金属はほとんど使われていなかった。
使われていたのは、マグネシウム、リチウム、ナトリウムくらいであった。
根岸博士は、今まで使われていなかった金属を使って有機合成をしようと考えた。
周期律表のいろいろな元素を使おうという「元素戦略」のはしりである。

根岸博士は、ブラウン教授の影響として、exploration(探求)という言葉を挙げている。
未知の世界の探検家である。
ブラウン教授にとって、ホウ素が新大陸であったが、根岸博士にとっては、周期律表が新大陸であった。

根岸博士は、基礎的なことでも分からないことはたくさんある、という。
たとえば、触媒の多くがd-ブロック遷移元素であるが、なぜかということが最近分かってきたという。
そして、分かってみればそれは、福井謙一先生のフロンティア軌道理論そのものずばりだという。
日本人がこの分野で目覚ましい貢献をしていることが窺える。

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