日本人はムー大陸から来た?/やまとの謎(36)
竹内均さんといえば、科学雑誌「NEWTON」の編集長を長く務めたことで有名である。
私は、受験生時代に旺文社の「物理の傾向と対策」でお世話になった。
この本を何回か読み返しているうちに、物理の問題のカンドコロとでもいうようなものが会得でき、問題に向かうと手が自然に動くような感じになったのを覚えている。
大学に入ってから、NHKブックスの上田誠也氏との共著『地球の科学―大陸は移動する (NHKブックス 6)』(6404)を読んで、こんなに面白い学問があるのか、と思った。
プレートテクトニクス理論がまだ眉に唾をつけて語られていた時代である。
東日本大震災は、改めて地球科学に一般の人の目を向けさせた。
しかし、竹内氏は、残念ながら2004年の4月に亡くなられており、この震災からの復興のあり方に関する意見を聞くことは適わない。
その竹内さんが書いた著書の1冊に、『ムー大陸から来た日本人-私の古代史』徳間書店(8009)がある。
たまたま散歩の途中に立ち寄ったBookOffで見つけ購入したが「竹内均と古代史?」「ムー大陸?」と、釈然としない思いがしていた。
しかし、決してキワモノとは言えない内容を含んでいる。
結論は、「縄文人は、“ムー大陸”の住人だった」である。
常識人は、ムー大陸の存在自体を信じないであろう。
Wikipedia110624最終更新によれば、ムー大陸は、お話の域を出ない説とされる。
ムー大陸(ムーたいりく、英: Mu)は、ジェームズ・チャーチワードの著作によると、今から約1万2000年前に太平洋にあったとされる失われた大陸とその文明をさす。イースター島やポリネシアの島々を、滅亡を逃れたムー大陸の名残であるとする説もあった。しかし、決定的な証拠となる遺跡遺物などは存在せず、海底調査でも巨大大陸が海没したことを示唆するいかなる証拠も見つかっておらず、伝説上の大陸であるとされる。
存在しなかった大陸の住人とは?
竹内さんも次のように言う。
チャーチワードの言うようなムー大陸が太平洋に存在しなかったことは、地球物理学者の私には、初めからはっきりしていた。しかし太平洋とインド洋を含む地域に住む人たちが持つ五〇〇〇年の歴史は、これを<ムー文明>と呼んで何のはばかりもないものである。
つまり、竹内さんは、ムー大陸の存在とムー文明を峻別しているのである。
それでは、ムー文明とはどういう意味か?
竹内さんは、ポリネシアやミクロネシアの人々が、5000年以上の歴史を持つこと、東南アジアを船出して太平洋を東に向かった人たちの子孫であることから、太平洋上に散在し、かつ交流をしている人たちが1つの文明圏にあるとしたのだった。
それを、大陸は実在しないという意味から、<象徴のムー帝国>と呼んでいる。
そして、以下のような考察の上で、「縄文人は“ムー大陸”の住民だった」としているのである。
・稲作あるいは焼畑農耕の伝播
・血液型の分布
・日本語の系統
・脳の機能の比較
・化石人骨の形態
・HB肝炎ウイルスの分布
・神話/習俗・儀礼の分析 etc.
興味深いのは、いわゆる『魏志倭人伝』に、南方的記述が多い、と指摘していることである。
もちろん、一読すれば、以下のような良く知られた記述に南方を感じる。
男子は大小と無く、皆黥面文身す。古よりこのかた、その使の中國に詣るや、皆自ら大夫と称す。夏后小康の子、会稽に封ぜらるるや、断髪文身して以て蛟龍の害を避く。 今、倭の水人、好んで沈没して、魚蛤を補う。文身は亦以て大魚・水禽を厭う。後やや以て飾りとなす。
・・・・・・
男子は皆露かいし、木綿を以て頭に招け、その衣は横幅、ただ結束して相連ね、ほぼ縫うことなし。 婦人は被髪屈かいし、衣を作ること単被の如く、その中央を穿ち、頭を貫きてこれを衣る。
・・・・・・
倭の地は温暖にして、冬・夏生菜を食す。皆徒跣なり。
http://www.g-hopper.ne.jp/bunn/gisi/gisi.html
アカデミズムの世界で竹内説がどう評価されているかは分からないが、私たちの中には確かに南方の海洋上の人と共通する要素があるように思う。
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