菅首相は一流詐欺師(ビッグコンマン)たりえたか?
不信任案否決で花道を飾るかに見えた菅首相だが、その後の展開は依然として芳しくないようである。
そもそも不信任案が否決されたのは、民主党代議士会で、菅氏の退陣表明に合わせ、鳩山氏や原口氏など反菅の軸となると思われた人が、否決を促す演説をしたことによる。
直後の衆院本会議では、最小限の造反は出たものの、大差の結果になった。
劇的ともいうべきどんでん返しである。
代議士会の様子はインターネットTVで見ていたが、鳩山氏や原口氏の態度が豹変したことの理由はよく分からなかった。
その後、鳩山氏と菅首相の間で確認事項という形で約束が交わされていることが判明した。
書式としては、下部に余白があるのが気になるが、両者が署名するスペースと考えるのが一般的だろう。
伝えられるところでは、署名を求めた鳩山氏に対して、菅氏が「同じ党内のことだから」云々ということで署名に応じなかったのだという。
「Trust me.」と言われたら、鳩山氏も強く求められなかったのだろう。
しかし、この余白部分に、本当に重要な密約が書かれていたのだ、などという怪説もあるらしい。
私はそもそもこういうボス交じみたやりとりが好きではないし、余り意味があることとも思えない。
案の定、確認事項の解釈をめぐって、さっそく両者が食い違いをみせた。
菅氏は、復興と原発事故に「一定のめど」をつけるまでは続投する意味だ、と続投に力点を置いて説明し、「一定のめど」とは、例えば原子炉の低温冷却が確認された時点のことだと、東電の実現性が危ぶまれている工程表でさえ来年のことになっている時点を口にした。
あたかも、勝者の余裕の如くにである。
これに対し、早期退陣のつもりでいた鳩山氏が「ペテン師だ!」と最大級の非難の言葉で応じた。
さすがにルーピーと評された鳩山氏も、「オトシマエをつけてやる」と言わんばかりである。お坊ちゃんはそんな言葉は使わないが、明らかにキレたように見えた。
不信任案に反対票を投じた民主党議員も、退陣表明をしたからには、そんなに長く椅子に座っているとは「想定外」だった。
菅氏の無期限(?)続投宣言で、一挙に流れが逆転してしまった。
今や閣僚ですら、今月末か来月初めがコンセンサスのようで、菅氏が「せめて8月まで」と言っても、耳を貸す人はほとんどいない。
完全なレームダック状態で、もはや早期退陣の流れを変えることは不可能だろう。
代議士会での不自然な逆転劇には、門外漢には理解しようもない事情があったようである。
前夜から、首相が退陣表明をするのでは、という情報が流れていたらしい。
そこに代議士会での演説である。
聞きようによってはどちらともいえる内容かもしれないが、「退陣」を刷り込まれていた人たちは、すっかり早期退陣と受け止めた。
菅氏の詐術を、「お見事!」と賞賛すべきであろうか?
私が山崎和邦『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)で勉強した詐欺師の手口は以下のようである。
⇒2009年5月 4日 (月):詐欺の第一段階としての錯覚誘導
⇒2009年5月 5日 (火):詐欺の第二段階としての瑕疵ある意思決定
⇒2009年5月 6日 (水):詐欺の第三段階としての財物の受け渡し
一事不再理とされる不信任案への投票は、財物の受け渡しに相当するであろうから、見事に上記プロセスを辿っている。
白昼堂々、弁論の専門家であるはずの政治家を相手に、完璧といっていい形でやり遂げた。
菅氏は、コンマンだったのだろうか?
コン‐マン 【con man】
《 confidence man の俗称》詐欺師。お人よしにつけこんで人をだます者
しかし、一国の首相が、詐欺師の手口で延命したところで何になるだろう。
しかも、ビッグコンマン(一流の詐欺師)とは、被害者すら被害に遭っていることが分からないような人をいうらしいから、一流とは言い難い。
いまや菅氏の思惑とは異なり、一挙に退陣への流れが本流になった。
花道になるはずの末路を自ら汚してしまったと言えるだろう。
ひょっとして、菅氏を騙した本当のワルがいるのかも知れない。
それにしても、民主党は、そろそろ「トロイカ体制」に引導を渡したらどうか?
⇒2010年8月31日 (火):いまさら「トロイカ体制」か?
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コメント
【Sakura So TV 快刀乱麻】民主党幹部の言語感覚―【私の論評】最早、個人の問題ではない、政治システムそのものの問題であり、問題・課題設定能力が鍵だ!!
ブログ名:「Funny Restaurant 犬とレストランとイタリア料理」
こんにちは。ペテン師などという言葉を遣うなど、今の民主党幹部の言語感覚は異常です。中途半端な考えしか持っていないものには、「自らの言葉で国民に訴えかけ、時には感動させる」ことなどは、できない芸当だと思います。これを実現するためには、基本的には100年前にできあがつた日本の制度疲労をおこした政治システムの革新が必要です。これを支える考え方として、統合的思考や、問題・課題設定能力が鍵になってくると思います。詳細は、是非私のブログを御覧になってください。
投稿: yutakarlson | 2011年6月10日 (金) 10時24分