柿本人麻呂/私撰アンソロジー(2)
小学校の6年ぐらいの国語の時間だったと思う。
どういう授業の流れだったか、教室の雰囲気がどうだったか、というような記憶はない。
しかし、初めて和歌というものが授業の教材として使われた。
中学の時だったかも知れない。
しかし、中学2年の時に、啄木の歌をめぐって、美人の女性教師と論争めいた話をした記憶があるので、それ以前のことではないだろうかと思う。
その時に、なぜか印象に残ったのが人麻呂の下記の歌である。
「近江の海」の「海」を「ミ」と発音するというように記憶していた。
「五・七・五・七・七」の定型に合致もする。
ところが、上記でははっきり「ウミ」とルビがついている。間違って覚えていたのかと思って調べてみると、「ミ」と読んでいる例もあったので安心した。
⇒http://www5e.biglobe.ne.jp/~narara/newpage%203-266.html
もちろん、その当時は、人麻呂についての知識など皆無であった。
他に憶えているのは、「近江の海」は琵琶湖のこと、汝はお前のこと、と言ったことである。
心もしのに、については大体の語感で、心寂しいことだろうと感じとった。
この歌がなぜ印象に残っているかは定かではないが、和歌というジャンルに自覚的に接したという意味で、個人史的には大きな意味を持っている。
その後、理科的な事象に興味が移り、人麻呂の歌に接するのは、高齢期近くなって古代史に興味を持ってからのことである。
人麻呂には謎が多い。
斎藤茂吉、梅原猛、古田武彦など魅力的な論考も多いが、これらは現在の私には正直に言って重い。
左手が不自由ということは、読書においても結構ハンディで、関心はあるもののしばらくはペンディングである。
NHK教育テレビで「日めくり万葉集」という番組を放映していることは知っていた。
しかし、5分間という短い時間であることもあり、視聴せずじまいのままだった。
書店で、同番組の6月のテキストがおいてあり、手にすると、上記の記事が載っている。
日替わりの選者が一首ずつ、万葉集から選歌する。
森博達さんの撰である。
森さんは、『日本書紀』の漢字の音韻や語法を分析して、渡来中国人が著したα群と日本人が書き継いだβ群を区分けし、『日本書紀の謎を解く―述作者は誰か』中公新書(9910)で啓蒙書にまとめた。
つまり、古代における音韻の第一人者であろう。
番組の放映は既に終わっていたので、視聴することができなかったが、森さんは実際に当時の発音でこの歌を読んだらしい。
古代における音韻は、「上代特殊仮名遣い」として知られる。
「上代特殊仮名遣い」については、私なりに関心があるので残念だった。
⇒2008年2月 9日 (土):上代特殊仮名遣い
⇒2008年2月10日 (日):上代特殊仮名遣いの消滅…砂川史学⑯
⇒2008年4月17日 (木):言語学から見た白村江敗戦の影響
⇒2008年4月18日 (金):言語学から見た白村江敗戦の影響②
⇒2008年4月19日 (土):上代特殊仮名遣論争
⇒2008年4月20日 (日):上代特殊仮名遣論争②
⇒2008年4月21日 (月):上代特殊仮名遣論争③
⇒2008年4月22日 (火):上代特殊仮名遣論争④
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