東電の賠償スキームをめぐって/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(33)
政府は13日、東京電力の福島第1原子力発電所事故の損害賠償支援スキームを発表した。
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東電の存続が前提で、債務超過にさせないことを明示。公的資金を投入して支援する一方、政府は東電の経営合理化を監督する。東電は政府の管理下で経営し、賠償を進めることになる。
http://www.asahi.com/politics/update/0513/TKY201105130140.html
この枠組みにはいくつかの問題点がある。
損害賠償額がいくらになるのか現時点では不明だが、債務超過に陥らないことが予め約束されている。
常識的に考えて、賠償債務は株主資本(約2.5兆円)を超える可能性が高いだろう。
とすれば、普通は株式は100%減資であり、次に貸出金や社債が棄損されるべきところであろうが、株主や債権者は保全(免責)されるというスキームである。
東電の株式は年金基金も多く組み込んでいるほか、社債の発行額は国内最大の約5兆円に上る。
海江田万里経済産業相は11日の都内の講演で、東電の救済策で経営破たんした日本航空(JAL)と同様な減資や債権カットの手法を取らない理由を問われ、「JALとの決定的な違いは損害賠償を受ける人たちが大変たくさんいることだ」と述べた。
東電の破綻処理は金融市場のシステミック・リスクに直結しかねず、“too big to fail”(大きすぎて潰せない)というわけだ。
しかし、減資や債権カットしないのでは責任が曖昧になるのではないか。
次のような解説がある。
「2003年のりそな(ホールディングス)のように実質国有化すれば株主に損失が及び、昨年の日本航空のように破綻させると債権者が大幅減免という損失を受けかねない。前者だと東電など電力に多い高齢者などの個人株主に損を負わせ、後者は銀行や生命保険会社などの2010年度以降の決算に巨額の損失を与えかねない」
「そうなると、関係者の不満が噴出しかねない。そうした不満を回避しようとすると機構方式で株主、債権者の損失を抑える方法しか残らなかった」
田村賢司『その場しのぎの原発賠償策』日経ビジネスオンライン(110517)
田村氏の言うように、その場しのぎで通すのはこの政権の常套手段である。
本質的な議論に踏み込むことが必要なのだが、そんな気配は感じられない。
東電は、損害賠償の目安をつくる原子力損害賠償紛争審査会に対し、賠償能力を考えて目安となる判定指針を策定するように注文したという。
福島第1原発事故の賠償問題で、東京電力が賠償限度への配慮や算定基準の明確化などを求める要望書を、原子力損害賠償紛争審査会に提出していたことが5日、分かった。審査会の議論に東電の主張を反映させる狙いがあったとみられ、審査会の独立・中立性を損ないかねないとの批判も出そうだ。
審査会は原子力損害賠償法に基づき、政府や産業界から独立した立場で賠償の目安となる指針を策定。4月28日に原発事故の賠償範囲の第1次指針をまとめたが、要望書は3日前の25日に提出された。この中で東電だけで賠償費用を負担するのは困難だと指摘。東電が負担可能な賠償限度に配慮しつつ、第1次指針を策定するよう要望した。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/05/05/kiji/K20110505000761670.html
また、、「異常に巨大な天災地変」で原発事故が起きた場合、事業者は免責されるという原賠法の例外規定に、今回の事故が該当する可能性があるとする見解を持っていることも明らかになった。
福島第一原発の事故に絡み、福島県双葉町の会社社長の男性(34)が東京電力に損害賠償金の仮払いを求めた仮処分申し立てで、東電側が今回の大震災は原子力損害賠償法(原賠法)上の「異常に巨大な天災地変」に当たり、「(東電が)免責されると解する余地がある」との見解を示したことがわかった。
原賠法では、「異常に巨大な天災地変」は事業者の免責事由になっており、この点に対する東電側の考え方が明らかになるのは初めて。東電側は一貫して申し立ての却下を求めているが、免責を主張するかについては「諸般の事情」を理由に留保している。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104280255.html原子力損害の賠償に関する法律
第三条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO147.html
関係閣僚会議でも、この条項の適用の可否をめぐって、激しい論争があったらしい。
会議では、免責を認めていない原案に対し、与謝野経済財政相が「3条ただし書きを適用すべきだ」と強い口調で求めたが、枝野官房長官は「法改正しない限り、今回の事故に免責条項が適用できるとは解釈できない」と反論。2人の言い争いはどなり合いにエスカレートしたが、最後は枝野氏が押し切った。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110513-OYT1T01346.htm
東日本大震災は、確かに「異常に巨大な天災地変」によるものだろう。
しかし、原発事故が果たして「異常に巨大な天災地変」によって生じたものと言えるのか?
私は人災としての要素が大きいし、それゆえにこそ責任の所在を明確にすべきと考える。
責任の所在を曖昧にして国民の負担を大きくする与謝野氏は、さすが厄病神と呼ばれるに相応しい。
⇒2011年3月 5日 (土):与謝野馨氏は疫病神か?
最大不幸招来内閣である。
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