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2011年5月12日 (木)

地震の発生確率の意味/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(26)

菅首相の要請により、中部電力浜岡原発はすべて運転が停止することになった。ただし、期限付きの停止であって、中止や廃炉ということではない。
どの段階で再開可とするかについては、現時点ではまったく分からない。
しかし、フクシマよりずっとリスクが高いと言われてきたので、被害が想定されるエリアの住人としては、とりあえずホッとしたというのが正直な感想である。

ある意味では当然の結果ではあるが、現実には「首相の要請」が無ければ中電も意思決定しなかった蓋然性が高かったと考えられるから、菅氏の行為は評価すべき面を含んでいると思う。
その上であえて言うのであるが、菅首相が、鬼の首を取ったように自慢げな態度を見せることには違和感を覚えざるを得ない。

1つには、記者会見という場で先に結論を下し、相手が絶対に「NO」と言えない状況を作りだしてから意思決定を迫るという手法の「あざとさ」が目につく。
確かに、そうでもしなければ紛糾してしまい、時間がかかってしまうのかも知れない。
しかし一国のリーダーの手柄というには、余りにスタンドプレーの度が過ぎているのではないか。
あるいは、「NO」の余地を無いようにするのが戦略というものかも知れないが、中電は戦う相手ではない。
上場企業の株価に影響するであろう要請を、唐突に行うことは、後々尾を引くことが懸念される。
事実、中電はしたたかに国から言質をとっていて、最終的な負担は国民に転嫁されることになるのだ。
浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項

ちなみに、中電自身の業績予測は以下のようである。
Photo
1株当たり当期純利益が111円→73円と3分の2に減少する。
原発停止が短期的な業績に影響することは間違いないだろうが、中電にとってプラスかマイナスかは判断はさまざまであろう。
従って、株価にどう反映するかも予測できないし、フクシマの事故と浜岡の立地からして、運転停止の影響はある程度株価に織り込み済みとも考えられる。

私は、基本的には、唐突な思いつきのような首相の要請で、業績や株価が左右されるのは好ましいことではないと考える。
しかし、それは不確定要素も多いので、置いておこう。
問題にしたいのは、地震の発生確率についてである。

首相は自分の判断の根拠として、「これから30年以内にマグニチュード8以上の想定の東海地震が発生する可能性は87%」を挙げている。
⇒2011年5月 7日 (土):唐突に浜岡原発の運転中止要請/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(23)
もちろん、「文部科学省の地震調査研究推進本部によれば」という但し書き付きの言い方である。
専門家の言うことを参照することは結構なことだと思う。
しかし、この確率を首相自身はどう判断したのであろうか。

「極めて切迫している」と数字をみて思ったということであろうか?
しかし、予測自体は既に出ていた。
であればこそ、浜岡を対象にした「原子力総合防災訓練」を、去年の10月に実施したのではないか。

平成22年10月21日、菅総理は総理大臣官邸で、平成22年度原子力総合防災訓練を行いました。
今回の訓練は、静岡県の浜岡原子力発電所第3号機において、原子炉給水系の故障により原子炉の冷却機能が喪失し、放射性物質が外部に放出される事態を想定して、政府、地方自治体、その他関係事業者等と合同で実施しました。

http://www.kantei.go.jp/jp/kan/actions/201010/21kunren_genshiryoku.html

しかし、4月18日の参院予算委員会における自民党の脇雅史参院国対委員長の質問に対する答弁が首相の認識の程度を物語っている。

菅首相を本部長として、昨年10月に行われた「原子力総合防災訓練」について、「どういう想定で行われたか覚えているか?」と質問したところ、菅首相は「いろいろな事態を想定したはず…」などと、明確に答えられなかった。
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110418/dms1104181549015-n1.htm

決して先見性をもって要請したわけではない。
もし数値で示した方が科学的であるかのように考えているとしたら、菅氏が理系人間であるというのもマユツバというべきだろう。
むしろ浜岡を仮想敵に仕立て上げることが、支持率回復の好機と考えたのではないか。

Photo_6静岡新聞(110512)によれば、中電が受け入れを決めた9日、原子力安全・保安院の職員が左のようなリストを御前崎市役所に示したという。
ご覧のように、確かに浜岡が突出して高い。
女川が8.3%以外は0%もしくは0%に近い数字である。数字は、「全国地震動予測地図」から原発の敷地内の値を抜粋して作ったものだという。

これを見れば、誰だって浜岡は絶対に止めるべきだ、と考えるだろう。
しかし、逆に、他は安全だ、と考えていいのか?
地震の確率は、発生周期と直近の活動状況から算出される。
フクシマの立地する双葉町と大熊町は震度6強を観測しているが、2010年版では、0~0.8%程度とされていたのだ。
つまり、地震予測はあくまで参考値に留めるべきもので、その確率を首相の重要な意思決定の根拠 にして示すのは間違いといえよう。
ただ、東海地震が切迫しているのは事実だと思われる。
それを87%などと、いかにもそれらしさを装うことがいかがわしいのではないか、ということである。

元になった「全国地震動予測地図」を見ると、下図のようなデータが載っている。
Photo_2
http://www.jishin.go.jp/main/pamphlet/leaflet/leaflet.pdf
宮城県沖が99%、想定東海地震が87%となっている。
これらが非常に警戒を要すべき地域であることは分かる。
しかし、99%とされていた宮城県沖であるが、宮城県は震災を防御できなかった。

そもそも、巨大地震の確率など、算出すること自体意味があることなのかと思う。
東日本大震災を引き起こした地震が、言われているように本当に1000年に1度のものだとすれば、確率の計算の対象にならないのではないか。

地震については、規模と発生確率の関係はべき分布であると言われている。
われわれには、正規分布が馴染みがあるだろう。
身長や学力など、平均値が最も多く、平均から離れるほど少ない。
しかし、地震については、「小さいマグニチュードの地震は多数発生するがマグニチュードが大きくなると発生頻度は急激に減少する」ということも納得的である。
Photo_8
http://www5d.biglobe.ne.jp/~kabataf/yougo/E_jisin/yougo_jisin3.htm

上記のような関係が成り立つとしても、それを予測に使うのは無謀というものだろう。
実際に手法自体の見直しも予定されているらしい。

政府の地震調査委員会は11日、これまで公表してきた、将来の地震の発生確率を示した長期予測の手法を見直す方針を明らかにした。「今後30年以内に東海地震が87%の確率で発生する」などとした予測が見直される可能性がある。
東海地震の発生確率は政府が浜岡原子力発電所の停止要請の根拠としている。地震調査委は、東海地震の想定や他の地域が強い揺れに見舞われる可能性が低いとした予測について、科学的な手法に限界があると認めた。過去の地震をもとにした長期評価では、東日本大震災を起こしたマグニチュード9の地震を予測していなかった。

http://www.asahi.com/national/update/0511/TKY201105110472.htm

もちろん、上記のような手法上の問題もあって、地震の発生確率が独り歩きして論じられることは危険である。
まして、菅首相のように、87%などと2ケタの有効数字で言うことは、間違いであると言っても過言ではないだろう。
だから「歩く風評被害」などと評されるのである。
政府に求めるのは、的確適時な情報開示である。

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