日本のエネルギー政策をどうする?/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(24)
菅首相の唐突な浜岡原子炉の運転中止要請は、さまざまな波紋を広げることになるだろう。
波立たせること自体が狙いのようにも見えるので、先ずは首相の思惑が的中したということになるのだろうか。
小泉元首相の郵政民営化の手法に倣ったのかもしれない。
大衆的な支持が得られれば、すなわち政権の延命ができれば、後のことは我関せず、である。
しかし、郵政に比べて、エネルギー政策の影響の範囲は格段に大きい。言いっ放しで終わりにできる問題ではないことは明らかである。
中部電力は、7日開催の取締役会で結論を出せなかった。
問題が多岐にわたるためである。
周知のように、電力会社の事業は、電気事業法という法律によって許可を与えられており、そこには「供給義務」の規程がある。
第18条 一般電気事業者は、正当な理由がなければ、その供給区域における一般の需要(事業開始地点における需要及び特定規模需要を除く。)に応ずる電気の供給を拒んではならない。2 一般電気事業者は、供給約款又は選択約款により電気の供給を受ける者の利益を阻害するおそれがあるときその他正当な理由がなければ、その供給区域における特定規模需要(その一般電気事業者以外の者から電気の供給を受け、又はその一般電気事業者と交渉により合意した料金その他の供給条件により電気の供給を受けているものを除く。)に応ずる電気の供給を拒んではならない。
つまり、中部電力は、域内の需要を拒んではならない。言い換えれば、(正当な理由がない限り)需要をすべて賄う義務がある。
要請を受け入れた場合、今夏の「予備率」は17%から3%程度に急減し、適正水準とされる8~10%を大幅に下回って、猛暑となれば管内に大停電を引き起こす可能性がある。
その他、火力に振り返ると燃料費が高騰し、赤字に陥ることも考えられ、株主への説明も難しい。
取締役会で、これらの見通しが直ちには立たなかったということである。つまり、菅首相の要請が事前に何の調整も図られず、中電とすれば突然に降ってきたものであることが分かる。
しかし、最終的には首相の要請を受け入れざるを得ないだろう。
それを「政治主導」と言えなくもないだろうが、やはりある程度の見通しを踏まえることは必要だと考える。
朝日新聞の社説は、浜岡原発―「危ないなら止める」へ、と題し、以下のように結ぶ。
濃淡に差はあれ、ハイリスクと懸念される原発は浜岡以外にもある。活断層の真上に立つ老朽原発、何度も激しい地震に見舞われた多重ストレス原発……。立地条件や過去の履歴などを見極め、危険性の高い原発を仕分けする必要がある。
すべての原発をいきなり止めるのは難しい。しかし、浜岡の停止を、「危ない原発」なら深慮をもって止めるという道への一歩にしたい。
http://www.asahi.com/paper/editorial20110507.html#Edit1
その通りであろうが、「すべての原発」が「危ない」だろうし(地震国日本で「安全だ」と言い切れる原発はないだろう)、現時点で「すべての原発」を止めるのは難しいというジレンマがある。
「危ない原発」なら深慮をもって止めるという道への一歩、というのは、市民運動に好意的な朝日らしい。つまり何も積極的に責任をもって主張していないようなものだ。
一方、日経新聞は、浜岡原発停止は丁寧な説明が要る、として次のように書く。
海江田万里経済産業相は5日に、同原発を視察し、今月半ばをめどに緊急対策が十分かどうか判断を下すとしていた。その翌日の停止要請は唐突と言わざるを得ない。
これでは、浜岡原発を緊急に止めなくてはならない理由があり、政府が隠している印象を国民に与えかねない。首相は「浜岡は特別」としたが、他の原発とはより具体的にどこが違うのか議論になろう。首相の判断は重い。結果として同じ結論に至るにしても、科学的な事実を基礎にした議論を経ないと混乱を招く。
・・・・・・
電力不足は震災から立ち直りを目指す産業界に厳しい制約を課す。東海地方は日本のモノづくりの中核的な地域だ。社会や産業への影響を最小限にとどめられるのか。政府は電力需給の実情を踏まえた上で、国民にきちんと説明する責任がある。
これもその通りであって、電力供給は生活・産業の死命を制することになりかねないから、「供給義務」があるのであり、電力不足は大きな社会問題だ。
菅首相の、唐突ぶりは、またもか、という感じだがことの重大性からすると看過し得ない。
当初予定の「今月半ば」を待てない事情は何か?
浜岡で何か隠していることがあるのか?
ないとすれば、フクシマからの逃走、あるいは「菅降ろし」への対抗策、ということになろう。
エネルギー政策を、個人的な事情で判断されてはたまらない。
個人的には、浜岡の即時停止に賛成である。
「30年以内にマグニチュード8程度が想定される東海地震が発生する可能性は87%」などという判断のしようのない確率論はともかく、東海地震が切迫していることは事実だろうし、それは明日かも知れないからだ。
この夏は、必要ならば、(愚策ではあると思うが愚策であることを実感するために)「計画停電」止む無し、というのが、「浜岡のリスク&東電の供給」エリアの住人の率直な感想である。
LED照明等現時点でも利用可能な技術はかなりある。
もちろん、白熱灯等の既存業界は強く抵抗するだろう。
蓮舫節電啓蒙担当大臣のように、「権力の行使は如何なものか」という考え方もあり得るだろう。
⇒2011年4月16日 (土):節電の優先順位をつけられない蓮舫節電啓蒙大臣/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(8)
⇒2011年3月27日 (日):計画停電を避けるために、省エネルギーをどう実現していくか
蓮舫大臣の「権力の行使」の反対概念は、「市場における選択」であろうか。
しかし、そもそも電力には自由な市場など存在しないし、菅首相の唐突な要請こそ、権力の行使というものであろう。
適正な権力を行使して、電力危機を、脱原発・電力省消費型社会への転換を図る好機とすべきだと考える。
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