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2011年4月 1日 (金)

「天皇」という制度/やまとの謎(29)

天皇、皇后両陛下が、、東日本大震災の被災者が避難している東京武道館を訪問された。
被災者に膝をついて話しかける姿を見て、なぜか私は涙が出てくるのを禁じ得なかった。秘かに嗚咽したと言うべきかも知れない。
元々涙もろい性質に加えて、脳梗塞の後遺症として感情失禁気味であることは自覚している。しかし、避難所で正座している被災者と、膝をついて話しかけている陛下の映像に、名状しがたい感情が湧いてきたのだ。

私は、尊皇意識が薄い人間である。
戦前・戦中の人たちが、真面目に「現人神」などということを信じていたことを理解するのが難しかった。敗戦後、わざわざ人間であることを宣言する行為が不思議だった。もっとも、同世代の人間では、それがマジョリティだとは思うが。

日本国憲法に天皇が規定されている。
第一章が「天皇」である。法制度の根幹の冒頭である。この意味で、天皇は紛れもなく、制度としてある。
しかし、その理解はなかなか難しい。

第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
自然人が、国の象徴になり得るのか?
あるいは国民統合の象徴だというのはどういうことか?
これについては前に触れたことがある。
⇒2011年1月 7日 (金):初詣と神道と天皇制
続いて次のようにある。
第2条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する
この規定も良く分からないものだ。
まず、皇位はなぜ世襲のものとされるのか?
皇室典範は次のように定めている。

第1条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

歴史的に、女性天皇が存在したことは小学生でも知っている。だから、現在の皇室典範の規定の「男子」という部分が必然であるわけではない。
小泉内閣の時の有識者会議でも、もう少しで女性天皇を認めようという雰囲気だった。われわれの世代では、女性天皇を認めることにさして違和感がない人が多いだろう。

より論議が錯綜しているのは、「男系の」という限定のようである。
なぜ、男系の男子なのか?
ある人たちは、神武天皇の「Y染色体の継承」に本質があるという。
生物学的な用語で言えば、論理性が高まるとでも考えているかのように。

しかし、私には論理的な思考とはとても思えない。
たとえ神武天皇のY染色体が特別なものだったとしても、125代の遺伝を考えれば、それが占める比率はほとんど0に近い。
そもそも、Y染色体などの非人格的要素を尊崇するのは、かえって非科学的ではないか。
⇒2011年1月10日 (月):皇統論における「Yの論理」への疑問

天皇陛下は、3月16日にビデオメッセージとして、広く国民に呼びかけられた。
それを「平成の玉音放送」という人もいる。たとえば勝谷誠彦氏の「月刊ウィル」の5月緊急特大号への寄稿である。
勝谷氏は私と違って、尊皇意識が強い。勝谷氏は、天皇陛下のメッセージの中の次のお言葉の意義を説く。

そして、何にも増して、この大災害を生き抜き、被災者としての自らを励ましつつ、これからの日々を生きようとしている人々の雄々しさに深く胸を打たれています。

勝谷氏は「雄々しさ」という表現は、昭和天皇の終戦後最初の正月の歌会始に出された御製を踏まえたものだという。

ふりつもるみ雪にたへていろかへぬ松ぞををしき人もかくあれ

その符合に気付いて、勝谷氏は慟哭したという。
確かに被災地の様相は、敗戦の後を連想させるものがあった。
国破れて山河在り……
被災後も雪が降り積もる厳しい風土であるが、必ずや復興する日が来ることだろう。
両陛下は、計画停電に合わせて自主停電を続けているという。

宮内庁は24日、天皇、皇后両陛下が福島第一原子力発電所事故に伴う東京電力の計画停電に合わせ、皇居・御所で15日以降毎日、自主節電を続けていることを明らかにした。
羽毛田信吾長官らによると、御所では計画停電の第1グループに合わせて自主的に電源を切っている。17、18、22、23日は1日2回実施。東電が停電を見送った場合も実施しているという。

http://www.asahi.com/national/update/0324/TKY201103240364.html

私なんかが、計画停電のやり方に工夫が足りないと言ってはいけないのかも知れない。
しかし、本当に困っている業種があることは事実である。

私は、大和の地に特別な縁があるわけではないが、不思議な郷愁のようなものを覚える。
一方で、大和魂で頑張れば何とかなる、というような言い方は嫌いである。劣悪な条件を精神論でカバーはできないだろうと思う。

私は、被災者を慰問する天皇・皇后両陛下の姿に、なぜ涙を流したのだろう。
法制度の規定からは理解できない。Y染色体と言われても、ピンとこない。
祈りとか祭祀という言葉が浮かぶが、「やまとの謎」の1つである。

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