津々浦々の復興に立ち向かう文明史的な構想力を
東日本大震災による胸が塞がるような被害の様子が映し出されている。
特に被害の大きいのは、東北地方の太平洋岸の諸地域である。
昔聞いた演歌が頭を過ぎる。
「港町ブルース」。森進一が唄った1969年のヒット曲。
その2番の歌詞である。
♪流す涙で割る酒は
だました男の味がする
あなたの影をひきずりながら
港 宮古 釜石 気仙沼
「宮古 釜石 気仙沼」は、いずれも今回の震災で壊滅的な被害を受けた場所である。
これらの市には、 「港町」と名の付く番地が実在するというから、典型的な港町といっていいだろう。
詞は深津武志。雑誌『平凡』による募集歌詞をなかにし礼さんが補作したものだという。
作曲:猪俣公章/編曲:森岡賢一郎。
演歌というよりも艶歌の字が相応しいかも知れない。
『艶歌』といえば、五木寛之さんの小説を思い出す。
五木さんの小説を最初に読んだ時の印象は鮮やかだった。
大学時代のあり余るほど時間があった頃である。下宿近くの古書店で二束三文で仕入れてきた中間雑誌に掲載されていた『GIブルース』だ。
その時点では、『さらばモスクワ愚連隊』で、小説現代新人賞を受賞していたことなど知らず、私にとっては無名の新人に過ぎなかった。一読して、快いテンポと巧みな構成によってただ者ではないことを感じさせられ、興奮したことを覚えている。
その直後に直木賞を受賞して、瞬く間に流行作家として名をなしていった。「時代と寝る」ことを標榜し、現在は寺院や仏教などについての著書が多いことは周知の通りである。
氏の膨大な作品群の中に、「艶歌三部作」と呼ばれるものがある。
『艶歌』『海峡物語』『帝国陸軍喇叭集』の連作で、後に前進座の創立70周年のために、『旅の終わりに』として再編して戯曲化された。
主人公は「艶歌の竜」こと高円寺竜三。
実在の辣腕の歌謡曲プロデューサー馬淵玄三がモデルといわれる。小林旭の歌を探していた馬淵は、新宿の歌声喫茶で『北帰行』を聴いて商品化したという。
小説の中の高円寺は、かつてはレコード会社の屋台骨を支えた存在であるが、敢えて時流に逆らい、居場所を失って会社を去る。
いかにもステレオタイプともいえるが、やがてグローバリズムに席巻される予感の中で、全共闘運動が吹き荒れる嵐の前の時、「艶歌=土着」に肩入れしたいという時代感情もあった。
「津々浦々」という言葉がある。
津:海岸・河岸の船舶が来着する所。船着き場。渡し場。港。
浦:水辺の平地。浜。岸。海や湖が陸地に入り込んだ所。入り江。
上記から「津々浦々」は、至るところの港や海岸、あちこちの港や海岸を指す。
転じて、国中遍く、とか全国の至るところ、という意味になる。
私が「津々浦々」という言葉で思い浮かべるのは、艶歌の舞台となるような鄙びた「港町」であり、漁村である。
いま、このような地域が、根こそぎの被害を受けている。
一刻も早い復興を念ずるが、おそらく元通りに回復するのを期するのは難しいだろう(脳卒中のリハビリと同じ-それにしてもAC・公共広告機構の脳卒中と子宮頸がん・乳がんキャンペーンは、罹患者の心情に無頓着でしつこ過ぎないかなぁ)。
つまり復旧とは別の視点が必要になると思われる。
この期に及んでも、菅首相は「大連立」等の政局的な視点で、谷垣自民党総裁に入閣を打診したという。
断られても、自民党の失点になるだろう、という読みがあったようだ。
浅慮も極まれり、というしかない。
どういう構想の下に事を進めるか、熟慮がない、というよりもその場の思いつきのようなものだから、いつも唐突感がある。
復興には、わが国の総力を挙げて取り組もう。
自然現象としての地震は避けることのできない国土の宿命である。
新しい文明を構想するようなプロジェクトになるだろう。
「グローバリズムVS土着」の対立を止揚して、全国の「津々浦々」 に防災プランを組み込んだ文明のモデルが求められる。
防災の「コンクリートから人へ」をどう具現化していくか?
格差是正の機会となし得るか?
GDPに替わるwelfareの尺度は作れるか?
まさに地域政策の正念場ではなかろうか。
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