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2011年1月10日 (月)

皇統論における「Yの論理」への疑問

私にとって、古代史は趣味の世界である。
したがって、天皇制についてどう考えるか、という問題もその限りでは「どうでもいい」ことである。
せいぜい、天皇という制度がいつ、どのような背景の中で誕生し、皇位をめぐってどのような争いがあって、それがどう決着したか、といったことに関心を持つ程度である。

一方、いま現在を生きている身としては、日本国憲法の第一章に規定されている「天皇」について、無関心でいるわけにはいかないだろうと思っている。
⇒2011年1月 7日 (金):初詣と神道と天皇制
制度に関しては、皇位継承の問題がある。

皇位を決定する法的根拠として、皇室典範がある。
現在は次のように規定されている。

第一章  皇位継承
第一條  皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

皇室典範の規定では男性皇族にしか皇位継承を認めていないにもかかわらず、若い男性皇族が決定的に不足していることから、敬宮愛子内親王誕生後、皇室典範の改正が議論されるようになった。
Wikipedia101211最終更新

現在ののままでは、この規定に該当する人がいなくなる。
改定しなくてもいいのか、と議論されたのは小泉内閣のときである。
この問題は、秋篠宮に悠仁親王が誕生したことにより解消された。しかし、いずれ何時の日にかは再燃する問題である。
その時論議されたのは、女性天皇さらには女系天皇を認めるかどうかということであった。

その時、男系に限るという論理として持ち出されたのが、Y染色体論である。
一見、生物学的であるかのように思え、それなりの支持者がいるようである。
Y染色体による男系必然論(いわばYの論理)は、例えば以下のように説明される。 

男系によって継承されてきたのが、万世一系を誇るわが国の皇室の伝統である。
これにより、神武天皇のY染色体が現天皇陛下まで連綿と受け継がれている。
これは遺伝学では常識であり、遺伝学上も理にかなっているのである。
・・・・・・
結論から言えば、愛子内親王の性染色体XXは、正田家と小和田家からのもので、天皇家に血縁のある性染色体ではない、と。
・・・・・・
愛子内親王が即位され、他家の男性と婚姻され、生まれたお子様は、男子であろうとも天皇家と縁のある性染色体を受け継ぐことはない。
連綿と受け継がれてきたY染色体が、天皇家から消滅する。
まさにここで万世一系は断絶することになる。

http://jijihyoron.seesaa.net/article/22838985.html

万世一系ありきのようで、なぜ万世一系でなければならないかがよく分からない。
学者はどうだろうか?
代表格が、八木秀次高崎経済大学教授であろう。
八木氏は生物学の専門家ではないが、系統遺伝学の専門家である蔵琢也氏等が陣営に加わっていて、科学的な武装をしているように見える。
その説くところは以下のようである。

Y染色体は父親から男児にそのまま継承されるのである。
・・・・・・
今上天皇や皇太子殿下は、父親をずっとたどっていけば古代の天皇たちにつながり、したがって伝説の神武天皇や日本武尊(ヤマトタケルノミコト)とほぼ同じY染色体をもつのである。

八木秀次『Y染色体説のどこがトンデモ説なのか』(「別冊正論14」(1101))による蔵氏の説明

八木氏はこの部分を蔵氏の著書から引用している。つまり、核心部分と考えているのだろう。
蔵氏はこの説明を、「神武以来代々受け継がれてきたY染色体の刻印」と表現している。
はたして、あなたはこの「Y染色体の刻印」の論理に納得できるだろうか?
私は、「NO」である。
⇒2011年1月 7日 (金):初詣と神道と天皇制

私の立場は、天皇制の合理性については疑問を抱かざるを得ないが、直ちに廃絶しなければならないとは考えない。
まあ、次の意見に近いと言えようか。

天皇制が、たとえ合理的な理由がなく、たんに国民感情にもとづき、伝統に従うのであるとしても、多数の国民がそれを維持しょうと欲するならば、それを維持することが、民主主義の原則である。
http://www7b.biglobe.ne.jp/~senden97/tennousei1.html

当然のことながら、いわゆる民族派においても、染色体をベースにする論理に批判的な言説もある。

最近、とみにDNA論で皇統を語る言説が多くなつてゐる。しかも、男系男子の伝統を擁護する者の中には、神武天皇Y染色体論を持ち出す者も多く、また、女系を容認する者の中には、天照大御神が女性神であるから女系が許されるなどとする天照大御神X染色体論(女性神論)を持ち出す者も出てきてゐる。しかし、男系男子の皇統を護持しなければならないのは当然であつても、このやうに、皇統をDNA論で語ることが皇統を護持することについて如何に有害であるかについての警鐘を鳴らしたい。
http://kokutaigoji.com/reports/rp_h180805.html

なぜか?
皇統のあるべき姿について、より合理的な論理があり得るか?

DNA論は紛れもなく「唯物論」であるといふ点である。天皇の血統といふこと自体が唯物論であるが、皇統にとつて最も重要なものは、血統とともに、皇霊(すめらみたま)を継承する霊統なのであり、その核心に宮中祭祀がある。
同上

いずれにしろ、科学的な論理で皇統の必然性を説明するのは困難であるようだ。
天皇制についての議論は、突き詰めれば以下のような議論になる。
なお、以下は、小谷野敦『天皇制批判の常識』洋泉社新書(1002)の書評ブログからの引用であり、著者というのは小谷野氏のことである。

(a) 天皇制の廃止に賛成:天皇皇族には私人になってもらう。純粋にただの一国民となるので、基本的人権も保障される。選挙にも行ければ職業も選べる。ただし国費で養うようなことはせず、宮内庁も解体する(事業仕分け行きだな)。著者の立場はこちらです。私もこっちに賛成。
(b) 天皇制の存続に賛成:近代の人権思想なんて嘘っぱちなので信じてはならないと断言する。人は生まれによって差別されていいし、基本的人権が保障されない人間もこの世にいてよいのだ、と子どもたちに教える。身分制万歳な前近代的立場。著者は「天皇制を支持する人に差別を批判する権利はない」と言うけど、全くその通り。
(c) 天皇皇族は人間ではない。だから、人権という概念は適用されないので、差別にもならない。
http://d.hatena.ne.jp/mickmack/20100516/1274021218

どうしても3択の中から1つ選べと言われれば、(a)だけど、上記のように、私の現在の立場はもう少し曖昧である。
しかし、Y染色体を根拠とする「Yの論理」にはまったく与しがたいとは考える。

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コメント

同感・・・

Y染色体、云々の理論が科学的にも論理的にもどれだけの合理性をもつのかは分かりませんが、科学的であろうとすればするほど天皇線は自らの存続の根拠を否定することは冷静になって考えてみれば明瞭なことです。

このY染色体云々の理論を持ち出し、皇室の継承が男系でなければならないと強く唱えていた方々は、どちらかと言えば天皇家の存続を強く望む方々・・・

矛盾は感じなかったんでしょうかねえ・・・?

投稿: 三友亭主人 | 2011年1月11日 (火) 05時37分

三友亭主人様

コメント有難うございます。
「天皇」という存在はおそらく科学を超越しているのでしょう。
それをよしとするのかどうか。
あくまで科学的に(真面目に)、男系でなければならないことを論証しようとするのかどうか。
尊王意識の強い人が何とか論理の糸を通したいという思いからでしょうが、自縄自縛だと思います。

投稿: 夢幻亭 | 2011年1月11日 (火) 16時31分

Y染色体論は、日本を二分する危険な主張ですね。

というのは、日本人男性のY染色体は、大きくわけても、縄文系と弥生系の2種に分かれます。

天皇のY染色体がどちらのタイプであるにせよ、一方が他方を差別する口実になります。

まあ、こんなことはあるから、天皇制なんてやめちゃったほうがいいんですよ。

投稿: Y | 2011年11月 5日 (土) 22時37分

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