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2011年1月29日 (土)

異質馴化-斎藤美奈子さん江/知的生産の方法(8)

異質馴化は馴質異化の対語である。

「異質馴化」とは、自分にはまったく未知なもののことをヒントに自分の問題解決を着想する考え方であり、「馴質異化」とは、すでに知っているものを新しい視点からみることで新しい着想を得る考え方である。
http://tyuko.blog97.fc2.com/blog-entry-123.html

馴質異化について触れ時に、異質馴化についても、いい例がないものかと思っていた。
⇒2011年1月18日 (火):
馴質異化-地図の上下/知的生産の方法(7)

斎藤美奈子さんという評論家がいる。
私は長らく名前を目にしながら、著書を手にすることがなかった。『
妊娠小説 (ちくま文庫) 』というデビュー作のタイトルを見れば、普通の感覚の男だったら、まあしり込みするのが当たり前ではないだろうか?
それが、ふと『文壇アイドル論 (文春文庫) 』を読み、続けて『文章読本さん江 (ちくま文庫) 』を読む機会があり、一気に斎藤ワールドに魅惑されてしまっている。
斎藤さんの魅力は、今まで無関係あるいは異質と思われてきたものごとを、新しい視点で捉えて、関係性や類似性を提示してみせることだとおもう。

例えば、『読者は踊る (文春文庫)』の冒頭で唐沢寿明『ふたり (幻冬舎文庫)』と石原慎太郎『弟 (幻冬舎文庫) 』という二著をとりあげ、その類似性を検証していることなどが分かり易い。
まあ、類型的な見方では、前者は人気俳優のタレント本、後者は著名作家(あるいは現職都知事)の最初で最後の「私小説」である。読者層も多分、重ならないだろう。
しかし、斎藤さんの慧眼は、『ふたり』が持っている私小説性を見事に見抜く。
それだけではない。『弟』から、マチズモ(マッチョ)というキーワードを引き出し、それを『ふたり』にも嗅ぎ取る。
そして、太宰治や坂口安吾などの「無頼派」を屈折した「マチズモ」の一バージョンだと喝破し、今や純文学業界では、「マチズモ」や「無頼」はストレートに通用せず、それをタレント本が担っているのだ、と分析してみせる。
さらには、政界と芸能界は、「マチズモが健全な社会」「無頼が価値をもつ世界」だと、社会批評にまで視野を広
げてくれるのだ。

異質馴化の見事な例証と言えないだろうか。
考えてみれば、デビュー作の『妊娠小説』にしてからが、新しいカテゴリーの発見であった。
あまたある文学作品を「妊娠」というワードで括りなおす。
新しいカテゴリーの創出とは、今まで類似性がないと考えられていたものを1つのグループとして取り上げるわけだから、異質馴化そのものである。

森鴎外の「舞姫」と島崎藤村の「新生」をそれぞれ妊娠文学の父、母とするところから始まり、1950年代の「太陽の季節」と「美徳のよろめき」、1980年代のW村上による「風の歌を聴け」と「テニスボーイの憂鬱」の対比など、妊娠小説の分類からして冴えを見せる。
http://www.yamdas.org/bmm/books/ninshin.html

ところで、「書く」ことと「考える」ことの関連性については既に触れた。
⇒2011年1月 8日 (土):
「書く」ことと「考える」こと/知的生産の方法(5)
マッキンゼーでロジカル・チェックという職務を担当していたバーバラ・ミントさんの『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』を代表例として、この2つのを相関させて説いて(解いて)いる本は数多い。
職場の文章というのは、普通は業務の報告書だとか、テクニカル・ドキュメンテーションの類だから、ことさら修辞上のテクニックを必要とするものではない。
しかし、自分の体験からすれば、こういう範疇の文章にしても、理解しにくいものが多いというのが実態である。
そして、それは修辞というよりも、思考の訓練が欠けているからではないかと思う。

斎藤さんの『文章読本さん江』は、谷崎潤一郎以来、多くの名文家がモノにしてきた『文章読本』を見事に腑分けしてみせている。
現実問題として、作家の書いた『文章読本』が職場の文章改善に役立たないことは実感していたし、まあ文章のジャンルが違うのだから、当然だということでもあろう。
しかし、斎藤さんは、「伝達の文章」と「表現の文章」とに明確に大別し、その違いの構造を明確にしている。
余りの明解さに、目の鱗がいくつあっても足りないくらいである。

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