本格的なインターネット戦争
米国政府は各国政府や民間企業と連携して、ウィキリークスに対する国際的な包囲網を形成し、創設者のジュリアン・アサンジを逮捕に追い込んだ。
一方、ウィキリークスを支持するネットの「反乱勢力」は、世界規模でサイバー攻撃を仕掛け、世界で初めて本格的な「インターネット戦争」が展開されている。
菅原 出『ウィキリークスを作るために生れた男』(日経ビジネスオンライン2010年12月22日号)
ウィキリークスは一つの非政府組織に過ぎない。
それが、冷戦時代のソ連ですらできなかったほどの大打撃を米国政府に与えている。
そこに、インターネットというメディアの持つ威力がある。
アサンジを支持するのは、具体的な勢力はどんな人たちで構成されているのか?
アサンジが保釈後向かったのは、ロンドンの北東190キロほどに位置するイースト・アングリアのエリングハム・ホールといわれる。
そのオーナーは元英国陸軍の将校でビデオ・ジャーナリストのボーガン・スミスという人で、ロンドンを拠点とする「独立と透明性」を求めるフリー・ジャーナリストたちの集まりである「フロントライン・クラブ」の創設者である。
スミスは、1500名におよぶ同クラブの会員を代表してアサーンジへの支持を表明し、エリングハム・ホールをアサンジに提供したことを明らかにしている。
日本ではアサンジを、「機密情報を暴露した胡散臭い元ハッカー」といったイメージが強い。
しかし、アサンジは広範なネットワークによって支えられている。
例えば、ミック・ジャガーの元妻で映画監督、人権活動家として名高いビアンカ・ジャガーや反ブッシュ映画で有名な映画監督マイケル・ムーアなどである。
アサンジは、政府や企業などの“組織が秘密にしようとしている情報”、“公の目から隠そうとしている情報”を白日の下に晒すことがウィキリークスの主たる活動であるとし、その究極的な目的について次のように述べている。
われわれのゴールはより透明性の高い社会を実現することではなく、より公正な社会を実現することである。透明性が高くオープンであることは、多くの場合、そうしたゴールに社会を導く傾向がある。なぜならば、権力を乱用する計画や振る舞いは市民の反対を受け、権力者がそうした計画を実施する前に人々の反対に遭うことになるからだ
特定の情報を秘密にするのは、知られると都合の悪い情報だからである。
政府がそういう行動をとるならば、その秘密を暴くことは、権力の乱用を防止し、より公正な社会の実現に寄与するであろう。
ウィキリークスとその活動を支援している人たちはそう考えている。
これは権力を監視しチェックする機能としてのジャーナリズムの本質的な役割と共通している。
アサンジが、みずからを「ジャーナリスト」として規定するゆえんである。
国内メディアは、国家の権力構造の中に多かれ少なかれ組み込まれている。
これに対し、ウィキリークスは国際的な組織で一国家の利益を超えているから、国家の圧力に屈することがない。
米国という超大国と敵対しながら活動を続けるアサンジとウィキリークスは、反米、反権力のシンボル的な存在になっている。
菅原氏は、アサンジの生い立ちをトレースし、次にように要約する。
ジュリアン・アサンジという人物が極めて特異な環境で生まれ育ったエキセントリックなキャラクターであることが容易に想像できるであろう。公教育を拒否するほど国家の権威に対する激しい反発心を持つ母親に育てられ、父親の暴力に怯え逃げ隠れた経験を持ち、コンピューターにのめり込み高度なハッキング技術を身に付け、政府と戦う上で内部情報を含めた秘密情報がいかに有効かを体験した男…。アサンジはまさにウィキリークスを立ち上げるべくこの世に生を受けたような存在である。
ウィキリークスの最大の特徴は、暗号化をはじめとする高度なコンピューター技術と、主要な機能を多国に分散して配置する多国籍運営体制である。
また、世界中で20か所以上のサーバーを利用し、「ミラーサイト」の数もすでに数百に上ると言われている。
特定の国家からの圧力に対して、きわめて抵抗力のある仕組みである。
アサンジは、「ウィキリークスを潰そうと思ったらインターネット自体を破壊しなくてはならない」と豪語している。
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