イシュードリブン/知的生産の方法(1)
知的生産の技術の分野に、久しぶりに快著が出現したのではないだろうか。
安宅和人『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」』英治出版(1012)である。
私は若い頃、リサーチファームに所属していた時期があり、それはいま振り返ってみれば私の修業期間だったと言えるかも知れないが、その頃から知的生産の方法については、少なからぬ関心を抱いてきた。
その職場では、仕事の性格上から、調査・リサーチの方法論について悩むことが多く、同じような悩みを持つ仲間と議論し、方法論を模索した。
そして、行きついたのが、「思考技術」という言葉だった。
専門横断的な知の方法論となるものは、畢竟するところ、思考ではないか、というのが結論だった。
当時、参考としうる成書はほとんど見当たらなかった。
梅棹忠夫さんの『知的生産の技術』岩波新書(6907)が、ベストセラーとして版を重ねていた。
⇒2010年8月 7日 (土):知的生産者たち/梅棹忠夫さんを悼む(18)
もちろん、啓発されることは多く、ファイリングやカード等のしくみを取り入れていた同僚もいた。
しかし、われわれが求めたのは、思考そのものの方法論であり、梅棹さんは、そのための環境整備について語っていた。
今でこそ思考技術や分析などの言葉を冠した書物が数多く出版されている。
中でも斎藤嘉則さんや後正武さんさらには船川淳志さんなどの書かれたものは、多くのビジネスパーソンの参考になるものと思われる。
あるいは、野口悠紀雄さんの「超」シリーズなども益するところが多いのではないか。
また、道田泰司&宮元博章/(まんが)秋月りす『クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法』北大路書房(9904)が出た時には、拍手喝采を送りたいような気がした。
⇒2010年9月22日 (水):クリシンはどこへ行った?
しかし、である。
ロジックツリーやMECEや「空雨傘」などは、もう十分に解説されているのではないだろうか。
これらの重要性や必要性はよく分かる。これらの欠如したビジネス思考はあり得ない。
しかし、それだけでいいのか?
著者の問題意識もその辺りにある。
著者は問う。
「<考える>と<悩む>、この2つの違いは何だろう?」
僕はよく若い人にこう問いかける。あなたならどう答えるだろうか?
著者の答えは次のようである。
「悩む」=「答えが出ない」という前提のもとに、「考えるフリ」をすること
「考える」=「答えが出る」という前提のもとに、建設的に考えを組み見立てること
この2つ、似た顔をしているが実はまったく違うものだ。
・・・・・・
特に仕事(研究も含む)において悩むというのはバカげたことだ。
仕事とは何かを生み出すためにあるもので、変化を生まないとわかっている活動に時間を使うのはムダ以外の何ものでもない。これを明確にしておかないと「悩む」ことを「考える」ことだと勘違いして、あっという間に貴重な時間を失ってしまう。
それはそう思う。
しかし、悩みが尽きないのが一般人ではないか。
イシュードリブンというのは、タイトルの示しているように、「イシューからはじめる」ということである。
イシューとは、さしあたって解くべき問題と考えればいいだろう。
著者は、仕事のバリュー度は、「イシュー度」と「解の質」の2軸によって決まるとする。
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