脱「犬の道」/知的生産の方法(2)
『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」』英治出版(1012)著者・安宅和人さんは、仕事のバリュー度は、「イシュー度」と「解の質」の2軸によって決まるとする。
そして、バリューのある仕事へ到達する経路として、「解の質」を上げることから始めることは絶対にやってはいけないという。
つまり、左下の象限から右上の象限に行くのに、上に行ってから左回りで右に行くことは、避けるべきだとする。
何故か?
世の中には、「問題」が山積している。そして、「問題かもしれない」と考えられていることの中で、本当に解くことに意義がある問題、つまりバリューのある仕事はほんの一握りに過ぎない。
ほとんどの「問題」は、「イシュ―度」の低い問題であり、いくら努力してみても、最終的なバリューは上がらない。
「努力と根性」を捧げても、報われない仕事なのだ。
タテ軸の「解の質」はキャリアによって向上する。
つまり、仕事をはじめたばかりの頃は誰でも低いのが当たり前である。
「イシュ―度」と「解の質」が共に低い状態では、「バリューのある仕事」は生み出せない。残るのは徒労である。
多くの仕事を質の低い仕事で食い散らかすと、仕事が荒れる。続けていると、高い質の仕事ができなくなる。
労働量によって上に行き、左回りで右上に到達する道を、著者は「犬の道」と呼ぶ。
「犬の道」を歩むと、ダメな人になってしまう確率が高い。
右上の象限に近づくために採るべきアプローチは、「犬の道」と反対回りをすることである。
すなわち、まず「イシュ―度」を上げることを考え、その後「解の質」を上げて行く。
言い換えれば、ビジネス・研究活動の対象を、意味のあることに絞ることである。
「イシュ―度」の高い問題に絞り込むことによって、問題に取り組む時間が大幅に増加する。
最初は「解の質」は低いが、徐々に確率は上がっていく。
やっても意味のない仕事を見きることによって、時間を生みだすのである。
それは、問題を如何に解くか(how)よりも、何を解くか(what)を重視するということであろう。
多くの場合、ビジネスの現場では、問題は「他人」から与えられる。
上司であったり、顧客であったりだが、いずれにしろ自分では選べない。
しかし、多くの類書が技法に力点を置くのに比して、先ず「イシュ―度」を考えよ、という指摘は斬新ではなかろうか。
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