大島渚の闘病生活/闘病記・中間報告(16)
大島渚さんといえば、松竹ヌーベルバーグの旗手として颯爽と映画界に登場した人だ。
学生運動のメッカである京都大学の法学部出身。1932年3月31日生まれ。
京大時代の同窓に推理作家の 和久峻三や、俳優・辰巳琢郎の父親がいる。大学在学中は猪木正道に師事。京都府学連委員長を務めて学生運動を行い、1951年の京大天皇事件や、1953年に松浦玲が放校処分になった荒神橋事件等に関わった。成績が比較的良かったため、法学部助手試験を受験するが、不合格となる。猪木は「君に学者は向きませんよ」と諭したという(『猪木正道著作集』・月報)。ま た、在学中に劇団「創造座」を創設・主宰し、演劇活動も行っていた。
Wikipedia101110最終更新
学生運動の体験が初期の『日本の夜と霧』に投影されているらしいが、この映画は、内容を知って慌てて松竹が上映中止にしたという。残念ながら私も見る機会がなかった。
比較的大衆の目に触れるようになったのは、TVのコメンテーターとしての活躍であろう。『朝まで生テレビ』のレギュラーパネリストとして体制批判的な発言をし、同じく学生運動経験者で保守派の西部邁さんと好対照を成していた記憶がある。
その大島渚さんが、壮烈な介護生活を送っているらしい。
夫人は女優の小山明子さんだが、「新潮45」の1012号に小山さんが介護体験記を載せている。
『私はこうして「会議地獄」を乗り越えた 今いちばん幸せな季節をともに』と題されている。
大島さんが脳出血で倒れたのは1996年2月21日のことだった。
国際交流基金の依頼で講演のために海外に行っていたときである。
直前まで多忙を極めており、「ロンドンへ旅立つ夫の疲れきった顔が目に浮かんだ」と第一報を聞いた小山さんは回想している。
やっぱり過労が要因の1つになっていたのだろう。もうすぐ、満64歳になるところであった。
私も同じような年齢であり、友人によれば、「かなり疲れている様子だった」ということだった。
⇒2010年3月22日 (月):中間報告(2)予知の可能性
いわゆる「面が割れている」小山さんは不用意に動くことを制約されたのだという。
「エネルギッシュで眼光に輝きのある人だったのに、表情はどこか虚ろで、ぼんやりしている」というのが小山さんが見た大島さんの姿だった。
確かに病気になると、自分では意識していても、どこか生気が抜けてしまう。
私も、「顔つきがずいぶん良くなった」と最近ようやく他人に言われるようになった。
小山さんは、介護生活の疲れと将来に対する不安、自らの介護を含む家事の能力への疑問等々が重なって鬱病に罹患してしまう。
大島さんはリハビリに励んだ効果もあって監督として復帰し、『御法度』もクランクアップする。
小山さんは、水泳教室やヨガ教室に通ったりガーデニングで汗を流しながら、鬱を克服していった。
その小康状態も長くは続かなかった。
大島さんが2001年に多発性脳梗塞を発症するのだ。
その後、十二指腸潰瘍穿孔になり、重篤な状態に陥る。
それから10年。
現在の大島さんは、歩行は困難、嚥下も注意を要する状態だという。
かつて超優等生だった大島さんは、超わがまま坊主に変身である。
以下主治医の言葉。
脳卒中の後遺症は、身体的な面だけでなく性格的な変化としても現れます。ご家族がそれを理解し、抱擁してあげることが大切です
我が家では、「そうかも知れないけど、それじゃ周りの人間は堪ったもんじゃないよね」ということになる。
心しなければならないな、と思う。
小山さんは、あえて「にもかかわらず」と付け加えて、「私たち夫婦は、今いちばん幸せな季節をともに過ごしている」という。
自身が鬱になるほどの苦しみを味わった末の深い言葉である。
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