藤原京はなぜ捨てられたのか?(続)/やまとの謎(8)
藤原京に遷ったのが694年。
未だ未完成の状態であった。
持統が没したのは702年のことで、その8年後には藤原京は捨てられ、平城京に遷る。
わずかな期間で藤原京が使用されなくなった理由は何か?
竹澤秀一『平城京と藤原不比等の野望』(「文藝春秋10年6月号)を参照してみよう。
竹澤氏は、まず「藤原京の水はけが悪かったから」という説の当否を検討する。
藤原京の跡地は現在でも水はけがよくない。
万葉集に次の歌がある。
大君は神にしませば 赤駒の 匍匐ふ田井を都と成しつ
大君は神にしませば 水鳥の すだく水沼を都と成しつ
大君は天武天皇、都は藤原京である。
「赤駒の匍匐ふ田井」や「水鳥のすだく水沼」を都にしたことを讃えている。
逆にみれば、それだけ条件の悪い土地だったことになる。
建設前から水はけが悪いことは周知のことだった。つまり、平城京へ遷都する理由とは考えにくいということである。
第二に考えられるのは、「遣唐使がもたらした長安の最新情報と藤原京の姿が合致していなかったから」である。
遣唐使は、669年(天智8年)に派遣してから途絶えていた。
年表を見てみよう。
⇒2010年11月 8日 (月):藤原京はなぜ捨てられたのか?/やまとの謎(6)
この間、壬申の乱(672年)、藤原京遷都(694年)、持統から文武への皇位継承(697年)、大宝律令制定(701年)などの出来事があり、動乱と変革の時代であった。
遣唐使が帰国したのは704年であった。
国づくりのための重要な情報を携えてきた。律令制、貨幣制度、都の在り方・・・・・・。
長安と藤原京の間に、造都理念に大きな齟齬があった。
長安では、宮が京の北端に位置していた。天子南面の思想である。
藤原京は、宮が京の真ん中にあった。
グローバルスタンダードに合致していなかったわけである。
しかし、それだけを遷都の理由だとしていいか、と竹澤さんは問う。
藤原京は、天武、持統が、恒久的な都とすべく計画したものである。
他に理由はないだろうか?
竹澤さんは、建築家として、「政治としての建築」を考える。
つまり持統亡き後権力の中枢にいた藤原不比等はどう考えたのか、である。
藤原京の立地は、皇族や大和王権を支えてきた飛鳥に近い。
不比等は、それが不安だったのではないか。
自らの権力基盤を固めるために利用できることは何か?
一つは天皇家との間に姻戚関係を築き上げることでる。
自分の娘の宮子を文武ん天皇に嫁がせ、光明子を後の聖武天皇の后にする準備を進める。
もう一つが、遷都という大規模公共事業である。
遷都による人心の一新は、権力集中の格好の機会であった。
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コメント
私も以前に藤原京のことは考えたことがあるんですが・・・
http://soramitu.net/miwa/?page_id=1262
なぜ、そこから16年で遷都してしまったのか・・・あんまり考えたことがなかったですね。
ただ、その遷都先の平城京にしても30年ほどで山城やら信楽やら難波やらとふらついてもいますし・・・
一定した宮城を志向しつつも、まだその事に拘泥しない考えも混在していたのではとは思うのですが・・・
投稿: 三友亭主人 | 2010年11月23日 (火) 08時04分
三友亭主人様
コメント有難うございます。
確かに、
>一定した宮城を志向しつつも、まだその事に拘泥しない考えも混在していた
だろうと思います。
ただ、ご教示頂いた貴サイトでも考察されているように、天武天皇がこだわった地を16年で廃するというのは、やはり短いなぁ、と思います。
相当の意気込みで始めたはずなのに、大正と同じくらいの期間しか使われないとは。
日本という国号が使われ始めたといわれる時期ともいわれますが、何か関係があるのではないかとも。
投稿: 夢幻亭 | 2010年11月24日 (水) 21時08分