「事件の構図」という仮説と成果主義
郵便不正事件で証拠品のFDを改竄したとして、最高検が、大阪地検特捜部元主任検事・前田恒彦容疑者を証拠隠滅罪で大阪地裁に起訴した。
前田容疑者は容疑を認めているとされ、動機について「有罪の立証に支障がある証拠があることで、公判が紛糾するのを避けたかった」と供述しているという。
この通りだとすれば、まことに信じられない事態である。
私は、隠された理由があるのではないかと勘繰ったが、そういうことでもないらしい。
⇒2010年9月22日 (水):クリシンはどこへ行った?
代表的な推論の方法として、演繹法、帰納法、アブダクションがあるとされる。
http://ns.pmaj.or.jp/online/1008/hitokoto.html
演繹法と帰納法は、昔から論理学の基本として知られてきた。
演繹法(デダクション:deduction)とは、前提(公理)を認めるなら、結論もまた必然的に認めざるを得ないというものである。
これに対し、帰納法(インダクション:induction)とは、個々の具体的事実から、一般的な命題ないし法則を導き出すことである。
数学は典型的な演繹法のスタートして結論を導き出す。
数学的帰納法とよばれる証明法がある。
しかし、数学的帰納法を用いた証明は帰納法ではなく演繹法である。
すべての自然数に成り立つことの証明が、一見帰納法のように見えるが、前提を認めることにより命題を証明する方法の一種である。
アブダクション(仮説形成法:abduction)とは、C.S.パースにより、提案された探索型の思考方法である。
思考過程については、多分に演繹と帰納間での、ある種濃密なインタラクションの中で、セレンデュピティ(serendipity)的な閃きが訪れるものと、という説明がなされている。
犯罪の捜査も、この3つの思考方法の組み合わせで行われる。
今回の事件では、事件の「構図」が問題にされている。
「構図」というのはいわば証明すべき命題であり、仮説であろう。
仮説を想定することは当然行われるべきである。
しかし、仮説に合うように証拠を改竄するなどは、前代未聞であろう。
この方法ならば、どんな事件でも有罪に持ち込めるだろう。
すなわち検事の手柄・成果である。
成果主義の悪しき事例といえよう。
この事件は多くの教訓を残すことになろう。
その1つが、視野狭窄的な成果主義である。
私は旧石器遺跡捏造事件を連想した。
自分の描いた構図にしたがって、証拠を捏造する。
「神の手」と賞賛された実装は、捏造に過ぎなかった。
余りにも常識から逸脱した行為である。
精神鑑定をしたほうがいいくらいだ。
しかし、精神状態が異常だったとして、責任能力はどうなるのだろう。
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