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2010年10月12日 (火)

ギリシャと日本/「同じ」と「違う」(23)

いささか旧聞になるが(といっても6月のことだ)、菅首相が参院選の最中に、次のような趣旨の発言をした。

日本の財政は危機的状況にあり、早晩ギリシャのように破綻する。財政再建は喫緊の課題であり、そのために消費税率を上げることを提案する。税率は自民党案を参考に10%程度を考える。

その後、参院選の大敗直後の記者会見(7月12日)で、「問題提起をしたことで、国民の認識は深まったのではないか」と強がったものの、党内からの批判が強いことから、両院議員総会(7月29日)では、「私の不用意な発言が厳しい選挙を強いた」と陳謝した。
民主党の国会議員には陳謝したが、国民に対してはどうだろう。
真に危機的状況にあると認識しているのならば、代表選の時にも論戦を避けるべきではなかっただろう。

しかし、果たしてギリシャと日本の財政状況は、「同じ」ようなものなのだろうか?
次の100430日付の中国新聞の社説を見てみよう。
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh201004300071.html

リーマン・ショックから回復しつつある世界の景気に、冷や水を浴びせる不安の種が膨らんでいる。国内総生産(GDP)の約1・3倍の借金があるとされるギリシャの財政危機だ。ギリシャ国債が「投資不適格」の格付けまで引き下げられると、おとといの東京株式市場はほぼ全面安となった。
……
今回の事態を招いたギリシャの危機は昨年10月の政権交代がきっかけで発覚した。当初、GDPの4%弱とされていた財政赤字が、新政権の見直しによって12%強にまで膨らんだ。国債の格下げが何度も繰り返され、それが資金繰りをさらに難しくする悪循環に陥っている。
……
日本にとっても「対岸の火事」では済まされない。このままユーロ安が進むと、日本の輸出産業への打撃が大きくなるからだ。ようやく立ち直りかけた景気への影響も心配される。国の債務残高は2009年度末で816兆円に上り、GDPの2倍に迫る。先進国の中でも最悪のレベルだけに、財政健全化のめどが立たなければ国債への信頼も揺らぎかねない。

確かに、日本の国債残高の絶対額、対GDP比は危機的状況のように見える。
政府の債務残高は、ギリシャがGDPの100%を多少超えた程度なのに対して、日本は200%に近づきつつある。
「純債務」で比べた場合でも、日本とギリシャはGDPの80%前後で、同程度の債務の大きさである。
しかし、日本政府が発行する国債は、主に国内の金融機関などが買っている。
海外投資家が保有する割合は7%程度しかなく、全体の9割以上を国内で保有しているのに対し、ギリシャは7割以上を海外の投資家が保有している。
国債を国内の投資家が保有しているのと、海外の投資家が保有しているのでは、大きな違いがある。

三橋貴明は、「日経ビジネス オンライン」100810で次のようにいう。

我が国は、自国の首相までもが「日本政府の負債」と「ギリシャ政府の負債」を混同し、懸命に破綻論を喧伝する摩訶不思議な国である。性質が全く異なる日本政府とギリシャ政府の負債を、「絶対額」のみで比較し、
「日本の借金の状況は、ギリシャよりも悪い。ギリシャは破綻した。よって日本も破綻する」
などと、単純論を主張(している)。
……
政府の負債問題(しつこいが、財務省式に言うと「国の借金!」問題)について考える際は、少なくとも以下の3つを考慮しなければならない。
2_2   
ギリシャ政府は外国(主にドイツやフランス)から、自国で金利を調整できないユーロ建てでお金を借り、それを公務員手当や年金などの「所得移転系」の支出に使っていた。より大雑把な書き方をすると、ギリシャ政府は外国からお金を借り、自国民に「バラまいて」いたわけである。
……
ギリシャの破綻が日本に教えてくれた教訓は、確かに存在する。だが、それは決して、
「ギリシャ政府は破綻した。日本の財政はギリシャより悪い。だから破綻する!」
などと、“評論家”たちがセンセーショナルに煽っている件ではない。
そうではなく、政府が支出を拡大し、国内に需要を生み出したいのであれば、子ども手当などの所得移転系ではなく、「国民生活水準の維持」や「将来の成長」のためにお金を使うべきであるという、まさしくその点なのだ。

菅首相は、現時点ではどう考えているのだろうか?
河村たかし名古屋市長は、恒久減税を掲げて市議会と全面対決の模様である。
増税か減税か、論理の方向は正反対である。
根拠と推論の筋道を明確にした説明を願いたいと考える。

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