佐藤優氏の大阪地検特捜部擁護論
FDの改竄容疑で大阪地検特捜部の元主任検事が起訴され、上司の部長、副部長も事情を知っていたのではないかとして逮捕された。
2人の上司は共に容疑を否認している。
仄聞するところによると、2人は「最高検のシナリオに沿ったでっち上げ」を主張したり、「取調べの可視化」を要求したりしているという。
今までの自分たちの取調べの様子を語っているようでもあり、野次馬的には面白い構図である。
事態は検察の存在自体を揺るがすものであり、特捜部解体論までいわれている。
私も少なからず同感の思いであるが、『新潮+45』11月号の、佐藤優氏の「外務省に告ぐ」という連載の、「あえて特捜検察を擁護する」を読んで、なるほどこういう視点もあるのかと思った。
佐藤氏は、元外交官で、Wikipedia(101010最終更新)によれば以下のような略歴である。
1985年4月にノンキャリアの専門職員として外務省に入省。
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1988年から1995年まで在露日本大使館に勤務し、ゴルバチョフの生死について、東京の外務本省に連絡する。
日本帰任後の1998年には、国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級、佐藤のために急造されたポストといわれる)となってし、橋本龍太郎首相とエリツィン大統領のクラスノヤルスク会談にもとづく2000年までの日露平和条約締結に向け交渉する。
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1991年9月、日本が独立を承認したバルト三国に政府特使として派遣されてきた鈴木宗男の通訳と車の手配などを佐藤が行なった件を機に知り合い、鈴木と関係を築く。主任分析官となった背景にも鈴木の威光があったと言われる。鈴木宗男と共に仕事をし、宗男から「外務省のラスプーチン」というあだ名を付けられたた、と本人はニッポン放送「上柳昌彦のお早うGoodDay!(2008年4月24日放送)」の中で主張している)。
2002年2月22日に外交史料館へ異動。
2002年5月14日に鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕。同年7月3日、偽計業務妨害容疑で再逮捕。2003年10月、保釈。512日間の拘留された。
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無罪を主張するが1審で有罪判決、2審で控訴棄却、2009年6月30日上告棄却。懲役刑が確定したため同日付で外務省職員を失職した。失職まで「起訴休職外務事務官」を自称。
佐藤氏は、まず検察は「事実を曲げてでも真実を追及する」という組織文化をもっている、とする。
特捜の対象は知能犯であり、物証は残さない。
だから、重要なのは供述調書である。
われわれは、供述調書というのは、供述したことを調書化すると思うが、実態は違うようだ。
まず検事が自分の好きな調書を作る。そこからどれだけ訂正してもらえるかの交渉がはじまる。
調書とは、基本的にそういうものだ。
問題は任意性である。
裁判の証拠とするためには、供述が任意でなされなければならない。
いくら事実に忠実でも、拷問によってなされた供述は無効である。
また、任意のものでも、事実と異なればやはり無効である。
「事実を曲げてでも真実を追及する」とはどういうことか。
佐藤氏は、田中森一元検事の例をあげて説明する。
田中森一元検事は、許永中と組んだ“悪徳弁護士”としてnotriousであるが、私は少なからぬシンパシーを感じる部分もある。
⇒2009年2月12日 (木):元特捜検事・田中森一氏のハードボイルド人生
ある公務員が収賄で逮捕された。
彼はホモだったが、それだけは隠したいという。それで架空の女性に貢いだことにして、調書にした。
あるいは、小さな犯罪をした者をお目こぼしをして協力者にして、より大きな悪を追及する。
検事に与えられた特権-起訴便宜主義が役に立つ。
さて、私が面白いと思ったのは、検察庁をかつての陸軍になぞらえ、大阪地検特捜部を皇道派、最高検と東京地検特捜部を統制派に見立てていることだ。
つまる、最高検による大阪地検特捜部に対する捜査は、戦前の統制派と皇道派と同様の争いである。
日本の場合、治安維持法への反省から、政治犯罪は存在しない建前になっている。
そこで政治的に有害な人物を排除するために、政治犯罪を経済犯罪に転換して処理する文化となった。
佐藤氏は、検察が捜査機能を失うと、その役割を担うのは、行政機関たる警察になって、時の政権の意向を反映することになる可能性が高くなるという。
そして、行政から一定の距離を保つ検察は必要であるし、東京地検に一本化すると権力が集中して危険だという。
大阪地検存続の意義である。
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