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2010年10月 7日 (木)

日本人研究者のノーベル化学賞を祝す

今年のノーベル化学賞が、鈴木章・北海道大名誉教授(80)、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、リチャード・ヘック米デラウェア大名誉教授(79)の3氏に授与されることが分かった。
授賞対象の業績は、有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応の研究である。
http://mainichi.jp/select/science/news/20101007k0000m040022000c.html

鈴木氏は米国留学から帰国後の79年、パラジウムを触媒に使い、有機ホウ素化合物から目的の有機化合物を効率的に作れることを発見した。この化学反応は、「鈴木カップリング」と呼ばれ、安定して取り扱いやすいホウ素を使うことから広い分野で使われるようになった。
ヘック氏と根岸氏はこれに先立つ70年代、パラジウムなどを触媒として炭素同士を結合させる手法をそれぞれ発見。これにより、異なる2種類の有機化合物の結合が可能になった。ヘック氏が見つけた反応は71年に、東工大の溝呂木勉氏(故人)も独立して同じ反応を報告しており、「溝呂木・ヘック反応」とも呼ばれる。
3氏の業績は、医薬品や化学繊維、液晶などの材料の人工合成を可能にした。クロスカップリングに代表される有機合成化学分野では多くの日本人研究者が活躍しており、「日本のお家芸」と言われる。

まことに慶賀に堪えないと言うべきであろう。
ここのところ、冴えないニュースが続いたので、他人事ではあるが気分爽快である。
日本人の「湧源性」が発揮された一例であろう。
「湧源」という言葉は、日本人として初めてノーベル化学賞を受賞した故福井謙一博士による。
京都大学福井謙一記念研究センターは、「知の湧源」を掲げ、物質的理論的世界観の創造の拠点たることを目指している。
http://www.fukui.kyoto-u.ac.jp/publication/panfu_pdf.pdf#search='知の湧源'
筆者のブログも、福井謙一先生の理念を拝借したものである。

さて、鈴木氏と根岸氏の研究の概要は以下のようなものである。
http://www.org-chem.org/yuuki/suzuki/suzuki.html

有機化学の基本であるはずの「炭素同士をつなぐ」というのは、実はなかなか難しい反応なのです。炭素と
炭素の結合は、粘土細工のように好きなところに好きな大きさの分子をくっつけて作る、というようなわけにはいかないのです。
……」Ccbond2_2
転機が訪れたのは1972年のことです。京都大学の熊田誠・玉尾皓平らのチームは、有機マグネシウム化合物と有機ハロゲン化物だけを混ぜるのでは全く反応しないのに、少量のニッケルやパラジウム化合物を添加してやるとこれが両者の仲立ちを果たし、極めて効率よく両者が結合(カップリング)することを見出したのです。
……
熊田-玉尾カップリングが開発されるまでは、AとBのパーツを結合させようとしてもA-AやB-Bが同時にできてしまうことが多く、このようにA-Bだけが選択的に作れる反応は例があまりありませんでした。こうした違うパーツ同士を結合させる反応を「クロスカップリング」と呼び、当然ながら有機合成化学者にとって非常に有用性の高い反応ということになります。ともあれこの反応は、この後爆発的に進展した遷移金属触媒の化学の先駆けとして、時代を画する研究と評価されることになりました。
この後、熊田-玉尾カップリングで用いられていたマグネシウムに替えて亜鉛を使う「根岸カップリング」、スズを使う「Stille(または右田-小杉-Stille)カップリング」、銅を使ってアセチレンを結合させる「薗頭カップリング」などが続々と開発され、それぞれ優れた反応として広く使われていくことになります。名前からもわかる通りこの分野での日本人化学者の功績は非常に大きく、クロスカップリング反応は日本のお家芸ともいうべきジャンルとなってゆきました。
……
2suzuki2 有機金属化合物は一般に反応性が高く、いろいろな反応に応用できますが、このことは裏を返せばデメリットにもつながります。つまり有機金属化合物は反応させたい相手(ハロゲン化物)だけでなく、カルボン酸・エステル・アミド・アルコール・アルデヒドなど多くの官能基とも反応してしまうので、これらが共存する分子相手には使えないのです。
……
これに対して有機ホウ素化合物は水や空気に対して全く安定であり、多くは結晶性の固体として長期間の保存が可能です。反応を行う時も神経質に水分を除く必要はなく、それどころか水を溶媒に使ってさえ問題なくカップリングが進行します。こんな炭素-炭素結合生成反応は他にほとんど例がありません。

まさに日本人の功績が大きい分野である。
日本の化学分野の研究の強さを示している。
日本経済新聞101007も、編集委員永田好生氏の署名記事で次のように論評している。

最近の研究は、ともすればすぐに応用につながるテーマを求められる。しかしそこから生まれる成果は追随しやすく競争力を保てない場合も多い。じっくりと腰を落ち着けた研究の重要性を、今回のノーベル賞は示しているのではないだろうか。そのための体制を築き、思い切って投資する責任ある科学技術政策を、日本は進めなければいけない。

その通りだとは思うが、コトはそう簡単ではない。
蓮舫大臣のように、舌鋒鋭く問い詰められたら、理系研究者の多くは口ごもってしまい、仕分けられることになってしまうだろう。

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